意思

ジャス地区第3でクリヤと共に戦ってからの日々は早かった。昨日より強くなった、そんな感覚が嬉しかった。ジーン先輩も俺も一月前とは比べ物にならないくらいの成長を遂げていた。それはお互いのツルハシの扱いを見れば明らかだった。


「そろそろだね…」


隣の国が氷の壁を削る理由は俺たちと一緒だ。資源を取り出すためだ。そしてこちらの国に接触するのももうすぐだ。


 あと2、3日で接触があってもおかしくはない。街からは事前に退避がなされたので店はほとんど閉まり、氷鉱夫が慌ただしく動いている。


 朝の光を浴びて特訓の仕上げをしようと先輩と控え室から出ると見慣れた氷鉱夫が現れた。ツルハシを腰にさしているグレンさんはこちらへとやってきて俺とジーン先輩の肩に手を置いた。 


「強くなったか?‥もうすぐで隣の国と接触するぞ?」


「わかってるぜグレンさん」


「よし、これから意思確認を行うぞ!氷鉱夫マイン、ジーン、相手の戦力は守護者、いつもの戦闘と同じだ、ただきついかもしれない…戦闘になったら俺たちと一緒に戦うか?」


今更何を、と言う感じだが、これは大切なことだ。氷鉱夫は軍人じゃないからだ。氷鉱夫は戦いを主としているわけではない。


「俺はやりますよグレンさん」


俺より先に先輩が答える。


「下の子たちが大勢頑張ってるんだ、俺も頑張るさ」


マインは?とグレンさんがこちらを見る。


「俺もだ!いろんな人に、場所に世話になった…守って恩返しする!」




グレンさんはそれを聴くとにこりとして作戦の詳細が書かれた用紙を手渡してくれた。ツドラルさんが考えたらしく事細かに何パターンもかんがえてある。


「マイン、ジーン、お前らの気持ちは受け取った。だがな、これだけは覚えておけ、一番の恩返しは元気に氷鉱夫を続けることだな、怪我したらすぐ下がれ」


グレンさんはそういうと採掘氷場から去っていった。残った先輩と俺はその用紙を熟読するのに1時間を要した。





****



意思確認が全員分取れた翌日、隣の国ヒョウとの接触部分ではツララ塔の人々が氷の壁が取り除かれるのを待ち構えていた。あたりの住宅、商店は避難がなされ、いつも聞こえる喧騒はない。氷の壁の向こうからガンガンという氷を削る音が聞こえてくる。どんどんソレは大きくなり、しばらくすると氷の壁にヒビが入る。


 いよいよだと氷鉱夫や政治家はそれを見つめる。氷の壁が取り除かれると氷塊がばら撒かれ、その向こうに人影を見た。


何人かの氷鉱夫には見覚えのあるその姿、流氷のポー は」からして防寒は完璧なようだ。


 そして彼の後ろには多くの戦力が見える。爪に麻痺効果のあるアイシーボルトは鼻を動かしこちらの戦力を探っているようだ。そのほかにもツララガンなどがこちらにキャノン砲のような腕を向けている。さらに普通のキャノン砲も見える。


ポーンは小さなマイクのようなものを持ち氷鉱夫に言った。


「わたくしたち流氷!資源、領土を頂戴したい!断れば…力づくでね」


この場にいる氷鉱夫は約20人、氷の壁が除かれるのを確認し、足止めする役目だ。氷鉱夫は政治家を逃し、ツルハシを構えた。1人の氷鉱夫がツンツンの頭を風になびかせ流氷に相対する。


「流氷の皆さんどうも、俺はジャス地区第3採掘氷場リーダー、カストルフだ、ツララ塔の総意を伝えよう」


「ほう!その若さで部隊を任されるとは!して?答えは?」



カストルフは低くツルハシを構えて答えた。

カストルフは慎重に言葉を選ぶように言う。

「平和的に外交を頼みたい」


「ほう…残念ながらわたくしはね…ヒョウの国の人間じゃないのでね!」


隣の国の人ではないので交渉はできない、そう伝えるとポーンはこちらに突然キューブをなげつけてくる。


 頭上を覆ったキューブはパリンという音を立てた後、キューブから考えられないほどの大きさのネットが飛び出す。


「なっ⁈」


カストルフは間一髪それを避けるも他の氷鉱夫達はネットに足止めを喰らう。絡まり、動けずにいる氷鉱夫がもがいているとその隙をついて多くの戦力がこちらに向かってくる。


カストルフ目掛けてアイシーボルトの爪が風を鳴らして襲いかかる。ツルハシの曲線で受け流し反撃に出たカストルフだが彼の横を多くの戦力が駆け抜けていく。


「ツララ塔!第二部隊!抜けていった!」


カストルフはそう通信機にいうとアイシーボルトを鉱技でパワーアップした攻撃で弾き返す。


「初手からハードだな…!みんな平気か?」


ネットから出てきた氷鉱夫はこの場に残ったアイシーボルトの戦力とポーンと向かい合う。


「ポーンさん、あなたの仲間はどこから攻めてくる?」


「言っても差し支えないからいってしまうぞ、サイドさ!」



カストルフの視界の端に氷壁からこちらの国に着地する戦力が今いる隣の国との接触部分から左右に200メートルほどにうつる。


 氷鉱夫は氷壁のそばには防衛を敷いているがこれほど早くに攻めてくるのは意外だった。そしてそれは初手から飛ばせるような多くの戦力を持つことを意味している、そうカストルフは考えた。


「まぁいい…あなたとアイシーボルト達はここで止める」


彼の第一目標は接触部分の優先権を勝ち取り、簡単にこれ以上の戦力が投入されるのを防ぐことだ。


カストルフは他の仲間とともに並びツルハシを構える。


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