責任感


やはりあたっていた。オーバーワークしていたのだ。プロジェクト始まってまだ2日目だが、普段の討伐からムリをしていればその影響が環境が変わった今になって出てきてもおかしくはない。


「マイン!とりあえず屋内に!あと女子!2、3人ついてきて!」


ノルダの的確な指示が飛ぶ。俺はミルを抱えて、宿舎の1番近い部屋まではしり、鍵を開けた。キーが共通なのは助かった。ノルダが連れてきた氷鉱夫と共に中に入り、ミルを床に寝かせる。


「次どうすりゃいい!ノルダ!」


「休ませるしかないよ、疲れが溜まってるだけだもの」


確かに様子が他におかしいところはないし、疲れと断定してもいいのかもしれない。なら、やることは一つ、食って寝るだけだ。俺とノルダは2、3人の氷鉱夫に様子を見ておくように頼み、再び作業に戻る。残ってくれた女の子たちはユウナリとの戦闘で協力してくれていた氷鉱夫だった。



「はぁ…なんだってあいつそんなに頑張ってんだ?」


俺も頑張ってはいるが、グレンさんに言われてからムリはしないようにしている。俺のオーバーワークは周りの圧倒的実力による焦りも混じった上昇志向だった。それによってもらう側の姿勢が染み付いてしまっていたらしい。しかしそれはミルやユウナリ、仲間の氷鉱夫にによって改善はできたのだ。しかし今回のミルの場合はどうなのか、ミルはNo. 1ルーキーである。


そりゃトップクラスに比べることはできないが氷鉱夫としてかなり優秀なことには変わりない。


「なぁノルダ、ミルのオーバーワークは実力足りてる足りてないの話じゃないよな…」


「だろうね、でも何かはわかんないなぁ」


俺たちはツルハシを隣同士で打ちながら考えてみる。だがそれはすぐにある壁にぶつかった。


俺たちはミルのことをどれだけ知っているのだろうか?


わりと金持ち、肉食、真面目、10歳で氷鉱夫スカウト。どうやってもオーバーワークに結びつかない。かと言ってミルから色々聞き出すのも悪い。



「よし!俺、カフェリア地区第一に行ってくる!」


「へぁっ?!へ、変な声出た…藪から棒になんでさ?」


俺はツルハシを振る手を止めてノルダに訳を話す。ノルダはツルハシの手が止まってしまっている。


「ミルのこととりあえずの保護者には言わないとな!あと、そのとき、ミルのこと聞いてみるよ、あっ、もちろんミルのプライバシーに突っこんだことは聞かないぜ?」


「というと?」



「だって心配じゃん、ミル。なんでこんなに頑張ってんのか」


だがミルの採掘氷場であるカフェリア地区第一に行くには時間がかかる、今から出発しないと夜になってしまうのだ。


「副リーダーノルダ!頼む!いかせてくれ!」



ノルダはうーん、と考えるポーズをした。


「んー、まぁ、ミルさんの健康が第一だしね。それに一応怪我や病気の類はちゃんとツララ塔か採掘氷場に報告しなきゃだし…よし!行ってこいマインっ!」



「了解!」


俺は他の氷鉱夫にも報告して、ツルハシを鞄に入れ、肩に下げ、カフェリア地区に向かった。日もてっぺんを過ぎ、だんだんと寒くなって行く。だが走ってることによりそれはさほど感じない。カフェリア地区までやつてくるのと店が閉まるのが早いところはもうシャッターを下げていた。


カフェリア地区第一の入り口はツララ塔の同じデザインで青いアーチがかかっている。中から作業を終えた氷鉱夫が出てくる。


「あの!すみません!」


反応した男は見覚えがあった。ミルの上司、カイという男だ。背が高く、腕は服の上からでも筋肉が分かるほどだ。剛腕であることはほぼトップクラスの証拠とも言って良い。



「キミは…あっジャス地区の子だな。グレンさんやカストルフの後輩…」


やはり便利な肩書きかも知らないがそれに感謝しつつ俺はミルのことを切り出した。


「マインといいます!お疲れのところすみません、カイさん!ミルのことで…」


「ミルの?何か風力発電所発掘プロジェクトで何かあったのか?話を聞くよ、おいでマイン君」


カイがカフェリア地区の控え室まで案内してくれた。カフェリア地区第一の氷の作業範囲は大きく、4人で作業してるらしいが、彼らの技量が高いレベルなことをものがっている。


煉瓦造りの控え室に入ると椅子にカイは腰を下ろす。俺も促されて腰を下ろすと話を始めた。



「実は…ミルがオーバーワークで倒れたんです。今は結構回復してますが…」


カイはそれを聞くと頭を抱えた。



「あぁ…すまないウチの…カフェリア地区第一の失態だ」


「そ、それはどういう」


カイは少し俯き、目をつむった。そして口を開く。


「ミルは…彼女が10歳の頃スカウトしたんだ」


それはすでに聞いていた。ミルが自ら口にしたのだ。


「知ってます、一緒に食事したとき聞きました」


「そうか…じゃあ想像できるかい?10歳の女の子を…本人の同意があるとはいえ僕たち氷鉱夫の利益、文明の発展のためにスカウトし、鍛えてきた。」


「はい」


「ミルには友達もその間ちゃんといたし義務教育もここでやった…でもある一つ俺たちが…カフェリア地区第一という組織が与えてしまった過剰なものがあるんだ」



「過剰?」



コップに水を入れ、数口飲んでため息をつく。何か考えているのだろうか。しばらくすると口を動かした。


「言うなれば真面目さ…過剰な責任感」

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