オーバーワーク

守護者に勝った喜びの最中ミルは徐に立ち上がり、レポートに何か書き始めた。俺も共に戦った仲間も不思議に思って見てみるとユウナリという人形守護者についてらしい。確かに初の守護者なら記録は残すべきだろう。


「みなさん、休んでいてください。私がやっておきます」


「でもミル…突風攻撃したろ、体力あんのか?」


平気です、と小さく言うとミルはデータをまとめてファイルに挟み込んだ。ミルは真面目で頼れるがツルハシに体力を流し込むと言うスタイルから少し心配なところがある。その証拠にミルの体は同年代の女子より小柄で細い、個人差はもちろん承知だがそれにしてもだ。



「そうか…なんかあったら言えよ!」


そう言った直後ノルダがとんでもない速度で駆けつけてきた。


「あの水が凍りついちゃって、もう!みんな平気?」


「あぁ、大丈夫だ!ノルダたちは平気か?」

ノルダたちはユウナリの水弾に打たれたので心配だったのだ。しかし防具のおかげかほぼ無傷なようだ。水が体に凍って張り付いたのもへっちゃららしい。



ミルがレポートを書き終えるのを一応待って氷鉱夫は全員宿舎に戻った。おれは同室のノルダに先ほど思ったことを話した。




「なぁ、あいつムリしてないかな?」


「へ?ミルさんが?」


「だって突風とかさらっと使うし…あれ体力と引き換えで最大2発だぜ?」


「確かに負担がありそうだね」


「仕事も結構遅くまでやってるだろ?」


ミルは隣で一人部屋らしい。遅くまで何かを書く音やトレーニングの音が聞こえてくる。それがノルダの朝が弱いことに繋がってるのかと思ったが本人曰く関係ないらしい。



とにかくミルはムリしてるようにしか見えないのだ。


「思い切って聞いてみるか!」


「いやいやマイン、ムリしてる?って聞いてウンとは言わないでしょ」


「じゃあ物的証拠を…お前細すぎない?ムリしてんだろ!って」


「それは失礼だね」


「ぐっ…確かに」



結局その日はそのまま晩飯を食べて寝ることとなった。ミルのことを考えるとグレンさんのアドバイスを思い出した。


(オーバーワークはだめだぞ)


シンプルすぎるが的を得ている。おれがやりすぎな時はいつも言ってくれる。もらうだけでなく与える立場にもなったことを自覚した今、ミルのオーバーワークも、止めたほうがいいのか。




翌朝またノルダが全く起きず、俺は先に着替え、鶴橋を持ってもう仕事に行ける状態になってやつと起床した。


「ノルダ!起きるんだ!ミルに怒られんぞ!」


「んん…うん…」


ノルダを引っ張って作業場に行くと他の氷鉱夫たちはすでに作業を始めているようだ。当然ミルもバリバリ氷を打っている。俺は持ち場に行くと目の前に埋まってる電子レンジに対峙した。四角いフォルム、見覚えがある。討伐が始まったあの日と同じ製品だ。


電子レンジの需要は高く、取り出せばかなり人々から喜ばれる。暖かいものを食べられると言うのはそれだけで心と体を癒してくれる。



ツルハシを構えて氷を打っていく。四角いフォルムが氷から出てくる頃になると他の氷鉱夫も取り出した製品を置き場に置き始めていた。


おれも置きにいこうと電子レンジを抱えた時、ガシャんと言う音がどこからか聞こえてきた。また誰かがツルハシを落としたり、腕を痛めたのだろうか、そう思って音の方を見てみるとやたら人が集まってる。何やら慌てているようだ。



「おい、どうしたんだよ、なんかあったのか?」


人混みをかき分けて行くとそこには倒れ込んだミルと近くに複数の氷鉱夫が心配して様子を見ている光景が飛び込んできた。


「ミル!」

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