集団の覚醒
「おい待っ」
ユウナリは俺の声を聞かずこちらへ突っ込んできた。グッと拳を引いたので俺はツルハシで防御姿勢を取った。小柄ゆえそこまでの威力はないと思った。
「…ふっ」
「?!」
ツルハシが割れるかもと思うほどの衝撃が俺を襲う。体が中に浮き、叩きつけられた。
ユウナリは追撃はせず他の氷鉱夫を狙っていった。ユウナリが動くたびに氷鉱夫が宙を舞う。
その動きはほとんど目で追うことができないほど早かった。
反撃しようとしてツルハシを振るっても振りかぶった時点で相手の蹴りが背中に入ってくる。
闇雲に振るうも全て避けられた。
「な、何だこいつ!いきなり…」
「私が動きを止めます!はぁぁあっ…」
ミルの突風なら範囲的にあいてをとらえることがでぎる。だがそれはツルハシを振ることが出来ればの話だった。ユウナリはミルの後ろに回り込み、手から出した水で絡めとってしまう。
「なっ?!…離してっ!」
ユウナリはミルの肩に後ろから顔を乗せ語りかけた。
「ツルハシは守護者の一部から作られる…私はあなたのツルハシ…の元になった材料を知ってる…だから鉱技…っていうのかしら?それも…わかる」
ミルを助けようにこのまま攻撃すればミルを巻き込む恐れがあるためうかつに近づけない。他の氷鉱夫もそれをわかってるみたいだ。
さらにいうと最初に水で飛ばされたノルダたちの増援も見込めない。なぜなら彼らが近づこうとするたびにユウナリが水の弾を飛ばして撃ち抜いてしまう。
「おい!ミルをはなせ!何でこんなことするんだ!」
ミルはまとわりつく水から逃れようともがくもその水は一層彼女を締め付ける。
「あたしはね…氷の中…からあなたたちの作業…見てたの」
「?」
「それでわかった…教育を…この…ミルちゃん?に…それとあなたに…施すべき」
俺とミルを教育?何を言ってるのかわからなかった。確かに未熟なルーキーだが守護者が俺たちを教育するなんて聞いたことがない。
ユウナリがミルに向かって手を振ると水がぱっと離れ、ミルがその場にべちゃっと倒れ込んだ。
「げほっ…げほっ…!」
「大丈夫か!」
すぐさま駆け寄るとミルに締め付けられた跡が残っていた。ユウナリは俺たちを見下ろし、教育を始めると言った。
「作業を氷の中から見てて…思った…あなたたち…人のこと…考えてない…でしょ」
「人のこと?私は…リーダーとしてみんなのことを…!」
「じゃあ…突風攻撃…やめましょ…?あなたの周り…仲間…いたわ」
ミルはドキッとしたようだ。確かツドラルさんにも言われていた。技は素晴らしいが周りの被害がある、と。
次にユウナリは俺のことを指さした。
「あなた…何で一人で突っ込んで…きたの?サポートされること…に…慣れてるんでしょ」
「そ、そんなこと!」
少しだけ、図星だった。周りが圧倒的な環境で仕事をしてきた。周りを格上と決めつけていたこともあった。助けられ、追いつこうともがくことが当然だった。
でもミルが言っていたじゃないか、俺は引っ張る側だと。本当はわかっていたのかもしれない。ユウナリに言われて確信へと変わった。
「俺は…確かに助けられ続けてた…グレンさんやミルにも…」
「ここに…あなたとミルちゃん…あと10人氷鉱夫…残したの…あなたは…未熟…けど…今までいっぱいもらった側でしょ…今度は…仲間に与えて…引っ張って…手本…なるの」
なぜユウナリは俺のことをこんなにしつているのか、その疑問はより大きな気持ちに飲み込まれた。自分のことばかりで、自分がより強く、うまくなることしか考えてなかった、という気づきだ。
「守護者のあんたに言われるとはな…そうだ…助けられてきた…だからうまくなろうと…上昇志向に…それが…極端だった!贅沢だった!もらいっぱなしだ!今度は…おれが…」
俺は後ろにいた氷鉱夫たちを見つめた。まだ会って何時間とたってないだろう。性格も、ツルハシも知らない。でも同じルーキーで、同じ作業中だ。
対等だ。何が学びに行くだよ!俺は自分のことしか…!学ばせてもらうのと同時に俺も彼らに貢献しなくてはならなかった!
俺はゆっくり立ち上がった。こちらを見つめる氷鉱夫に歩み寄った。
「俺はマイン…ジャス地区第3採掘氷場で仕事をしてる…俺一人で突っ込んでたかもしれない…でも、力を…貸してくれ…もしいいなら引っ張らせて…ください…!」
そこにいた10人たちはにこりと笑った。一人が言った。
「俺、ジャス地区のファンなんだ、喜んで力を貸すぜ!」
「私で良ければ…」
「やったろうやないか!」
10人は俺に近づいてきて隣に並ぶ、最後にユウナリの足元で倒れこんでいたミルに俺は手を貸した。
「やろう…ミル…みんなで!」
「…当然」
ミルは力強く言った。俺の手を借りずに立ち上がった。まぁ、こういうやつだ。ユウナリはこちらを見てにこりと笑った。
「そうなの…その感じ…氷鉱夫…はそれが…素敵…」
全く何が何やら状況がわからないが、やるべきことははっきりした。
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