突然

氷を打つ音が草原に響き渡り、氷鉱夫の足元には氷片が溜まっていく。隣は知らない人だが他の氷鉱夫から学びたい俺はちらちら見ながら作業していた。


「ふむふむ……」


変な目で見られた気がしたので自分の作業にすぐさま戻る。どうやら生活必需品も普段の採掘と同じように埋まってるらしいが、依頼者がいないのでツララ塔が買い取るらしい。


「目の前に…あれはアイロンか?」


小さいものを掘るときはまず周りごと氷のブロックのように取り出し、後で削るのが効率がいい。焦ってダイレクトに取り出そうとツルハシを打てばものが傷つく可能性がある。


「よしっ!おーいミル!取り出した製品はどこに置いとくんだ?」


「まだ誰も製品は取り出せてないので決めてません、ご自由に!」


ミルの前には製品が埋まってないようで、どんどん氷を削っている。ミルの隣の氷鉱夫とはかなり差が開いているように見えた。


「うーん…宿舎の前に置いとくか…」


宿舎の前にビニールシートを引き、製品の名前を書いたメモを貼って置いておく。メモを書いたところでノルダがテレビを掘り出して持ってきた。


「お、重い…」


「パネルとか傷つきやすいよな、テレビ掘り出すとき」


「そうだね」


ノルダとまた持ち場に戻って氷を削ろうとすると遠くからがしゃんという音がきこえてくる。

何事かとそちらを見てみれば、製品を氷から取り出すのに手を滑らしたらしい。


「おい大丈夫か!」


駆けつけてみると落としたのは自分のツルハシらしく製品は無事らしい。だが、その氷鉱夫は手首を痛めたらしくノルダはすぐさまツルハシを落とした氷鉱夫のもとに駆け寄った。


「平気?あぁ…手首を酷使したんだ…もっと腕全体で降るといいよ」


「あ、ありがとう…」


ノルダはその氷鉱夫の手を取ると腰のポケットから包帯と湿布を取り出し処置を始めた。

「痛みが増したらいつでも言ってね!」


ノルダは早速副リーダーっぽい。相手はノルダにお礼を言うと腕を振るように意識し始めたようだ。そしてノルダと共に持ち場へと戻る。


やっぱりノルダの方が副リーダーにふさわしいんだ。そう考えると納得はいくが何かもやっとする。ノルダはいいやつだし、気が効くし朝弱いこと以外パーフェクトに見える。ミルがいうように俺がみんなを引っ張る側というのはわからない。


ただ、俺は周りから技術を吸収しながら氷に向き合うだけだ。


「午前の作業は以上!」


そんなミルの声を聞くまで俺は氷と向かい合い続けた。どうやらかなり掘り進んだようで、俺の持ち場は隣より大きく凹んでいた。つまり隣より採掘はうまいかもしれない。だがそれがみんなを引っ張る立場にいるべきという根拠にはならない。


昼は弁当が支給されるらしく、冷たい風を凌ぐため一時部屋に戻つた。


「ノルダはミルと話し合いか…」



ベッドに身を投げ、壁を見つめる。このモヤモヤした気持ちはなんだろう。ホームシックか?グレンさんやカストルフさんと離れてまだ三日と経ってないぞ。確かに元の職場であるジャス地区は居心地がいい。


グレンさんは頼れるし、カストルフさんはかっこいいし…それに全員俺より何倍も優秀だ。みんな俺を助けてくれる。だからだろうか、与える側にそして引っ張る側に俺はなれる自信がない。



しばらくして休憩が終わった。作業場に戻るとやたら騒がしい。ノルダとミルがいるところまで行くと2人が見たこともない表情だ。


「どうしたんだ?」


「…初めて見る守護者です…」


ミルが指差す方を見ると俺は驚いた。氷の中にいるのは俺らと変わらないフォルムの守護者だ。守護者と言っていいのかもわからない。

身長はグレンさんと俺と間ぐらい、175センチくらいだろうか。手足には鱗がついている。目は氷のように透き通っている。氷の中にいるということは…

「人型の守護者っているのか?」




「わかりません…」


他の氷鉱夫に聞いても見たことがないという。ミルは判断しかねているようだ。このまま氷から出して様子を見るか、放置するか。氷から出て戦闘になったとしたら相手のデータがない。



また、相手が守護者としては小柄だから連携して攻撃するのは無理だ。



氷鉱夫が考えに考えているとどこからか声がする。まさかと思ったがそのまさかだ。氷の中にいるはずの守護者?が話しかけてきた。


「あたしはユウナリ…貴方達…のいう守護者よ」


驚愕した。氷の中で喋るとは思っても見なかった。ミルはリーダーとして驚きつつも話に応じた。


「な、えっ、わ、私はカフェリア地区のミル…貴方は一体…?」


ユウナリと名乗ったその守護者は氷の中をスイスイと泳ぐようにして動き回って答えた。


「守護者…何を守ってるのか…あたしでもわからないけどね」

アンニュイな感じで喋るユウナリはぐるっと見渡してからミルの方へ戻る。

「氷から出したら…戦いますか?」


「うん」


「なぜ?」


「内緒…それと…氷から出したらって…何?あたしは…氷の中泳げる…」


ユウナリが一瞬で氷の壁の端まで移動してに言った。何かを察知したミルが突然叫んだ。


「…全員下がって!!!!」


「当然…出れるわよ…氷から」



ユウナリは硬い氷を暖簾を潜るように何の抵抗もなくするりと抜けて地に足をつけた。


ミルはツルハシを構えた。俺とノルダも慌ててツルハシを構える。何をしてくるのかわ全くわからない。だが防御だけはしとかなくてはいけない。


ユウナリはゆっくりと手を肩まで上げて人差し指で俺とミルを指した。


「手がツルハシの女の子…黒いツルハシのツンツン頭…後その後ろの氷鉱夫…10人…でかかってきてね…緑の子と他の子はおやすみ…だから」




ユウナリがバッと両手を降るとどこからともなく水が現れ、ノルダと他の氷鉱夫を遠くに押し出してしまった。冷気にさらされた水は瞬く間にノルダたちの体を覆い、氷になって張り付いた。


「ノルダ!」


心配する俺とミルをよそにユウナリはその場で何回か飛んでから拳を鳴らした。


「じゃ…あたしから行くわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る