風力発電所

大規模プロジェクト

グレンとツドラルがルーキーを大規模プロジェクトに推薦したということで他の氷鉱夫たちも自分の採掘氷場のルーキーを推薦し始めた。

それをみかねて議長が口を出す。


「ルーキーが不満というわけではないが…ベテランがゼロというのは問題だろう」



議長は大規模かつ前代未聞のプロジェクトに経験の少ないルーキーを使うのに不安があった。しかし今年のルーキーへの期待は大きなものだった。なぜなら氷鉱夫の大半は一度ミルというルーキーの女の子に吹っ飛ばされているからた。


「あの突風の娘がいるんだろう、平気さ」


「あぁ、そうだな!グレンさんとツドラルさんのお墨付きもいるし!うちのルーキーも参加させますよ」


各採掘氷場の代表者たちは議長と違ってルーキーの登用に賛成だ。多数決の議会においてこうなっては議長はもうどうにもできなかった。


「わかった。ルーキーの約100人ということにしておく」


「やっべぇ、ツドラル。全員ルーキーになるとは思ってなかったぜ」とグレンはツドラルに耳打ちするとツドラルの額にも冷や汗が流れた。

議会が解散されると、ツドラルとグレンは議長に呼び止められた。


「ちょっといいかね、グレンくん、ツドラルくん」


「なんですか議長」



「君らの後輩たちに任せても平気なのか?」



「うーん…信頼できる氷鉱夫ではあります…というか俺らの意図議長さんならわかってたでしょ」



「…まぁな。ベテランを無理に駆り出せば採掘氷場の作業が止まってしまう」


「俺もグレンと同じ考えです…しかし後に続いた他の代表者がルーキーを同じように推薦するのは…」


グレンとツドラルの氷鉱夫の実績はとてつもないものであった。自分で口から言わないにもかかわらずある程度経験を積んだ氷鉱夫ならその実績を知ることになる。



そんな彼らを知っている議長は信頼しつつも、影響力の大きさで会議が左右されることを不安に思っていたのだ。



「こちらとしてもルーキーのサポートはする…だが、ベテランは1人欲しい。君らはどうかな」


グレンとツドラルは引き受けたいのはもちろんだが、プロジェクトと大事な仕事が被っていた。

しかしそうなると2人に並ぶ氷鉱夫は少なくなる。議長と2人は考え込んだ。


「…まぁ、こちらで探しておくよ。2人は帰って休んでくれ、呼び止めすまないな」


議長はクマのある目を擦って会議室から出た。その様子から多忙さが読み取れる。氷の壁に対する仕事は氷鉱夫だけではない。ツララ塔の人々も日々あくせく働いている。






 




ジャス地区第3採掘氷場




「いててて!」


「マイン動かないで、治療できない」


カストルフさんの手を煩わせるのは本当に申し訳ない。モロに蹴りを喰らった腕はあざのようになっていた。骨にヒビは入っておらず、明日からも作業は可能だ。


「よし!他に痛いところは?」


膝がなったことがあったがその痛みはもうなかった。


「大丈夫です!ありがとうございました!」



腕を動かしてみるも痛みはだいぶ減っている気がする。他の氷鉱夫が片づけと着替えを始めていたので自分もそうするとふと気づいた。


「カストルフさん…みんな胸当てとかつけてるじゃないっすか」


「うん?マインも欲しいのかい?」


欲しいというよりあった方がいいと思った。防御力は格段に上がるはずだ。


「マインにはツルハシあげちゃったからもう経費でプレゼントはできないな…用具店に売ってるから見ておいで」


「俺のツルハシ経費なんですか?!」


どうやらジャス地区第3は自分が思ってたより優良らしい。氷鉱夫の誕生日プレゼントは経費、氷よりホワイトじゃないか。


そしてカストルフさんに言われたように採掘氷場を後にした後は少し用具店に寄ってみることに決めた。カストルフさんが紹介状書くといってくれたがそこまでしてもらうのは気が引けた。


「お先失礼します!」


「おつかれマイン!また明日ね」


まだ日は高いから用具店出た後何をするか、そんなことを考えて歩くといきなり誰かに腕を掴まれた。突然のことに腕を払ってツルハシまで構えてしまった。街中ということに気付いて慌ててしまうも、あたりの人からは不審な目で見られた。


「おいマイン、街中で危ねぇな」


「ご、ごめん…グレンさんだってわかんなかったんだよ」



それより言いたいことがあった。グレンさんがいないときにちゃんと討伐ができたのだ。ドヤ顔して自慢したくてたまらない。だがその前にグレンさんが意外なことを言い出した。



「なぁ…大規模プロジェクトにお前推薦したんだけど行きたいか?断れるけど」



「大規模プロジェクト?」


グレンさんによると風力発電所が見つかったとか。歩きながら説明を受ける。


「氷の中に大規模な施設が見つかると100人規模で氷鉱夫を集めて、掘り出すことになってんだ。それにマインを推薦した」


「いいなそれ!俺行きたい!」


上昇志向に満ち満ちているおれにとつてはうまい話だ。だがふと気づいた。風力発電所を掘り出すとなると…


「それ泊まりか?」


「ん?そうだな。まぁ、ツドラルはノルダを推薦したし、部屋は一緒にできるぜ」


それを聞いてほっとした。全国から集まるなら知らない人が多いという点では不安だ。一方見本が多いのは嬉しいことだ。



しばらく歩きながら話しているとやがて氷甲府用具店が見えてきた。大きなショーウィンドウにはツルハシやら胸当てやらがずらりと並んでいる。そして討伐のことをグレンさんに報告することにした。

「俺たち討伐成功したぜ!で、その後カストルフさんが防具を買うといいって言われたんだ」


「防具か…よし、大規模プロジェクトに備えて俺が奢ってやろう」


「いいよ、悪いよ」


前に昼を奢ってもらったのとは規模が違う。防具となると銀貨ではなく金貨の話になってくる。


「気にすんな、お前の年収より俺の所得税の方が多いレベルだかんな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る