これまでとこれから
ツララ塔に着くとミルとノルダはもう来ていた。ノルダがこちらに手を振っている。
「遅かったか?」
「いや全然?僕は楽しみで早く来ちゃった」
それを聞いて少し安心した。1人だけ舞い上がってたら少し恥ずかしいからだ。だがノルダが言ってくれたから俺も言える。
「俺もだよ、とするとミルも楽しみで早くきたのか?」
「……まぁ…そうですね…」
そういうとミルは照れ隠しかさっさとツララ塔に入ってしまった。思ったよりわかりやすい子かもしらない。続けて入ると大きな空調が見えた。外気と違ってムワッとした空気が3人を包んだ。
「良いなぁ、あんな空調…」
「公共機関ですから…ツララ塔資料館はこっちですね」
ミルは職員が右往左往するのをするすると避けて資料館に行ってしまった。慣れはしたがミルの手はツルハシと同化してるから人混みに突っ込むのは危なっかしい。
すれ違う人がびっくりして身を引いている。
「俺たちも早く行こうぜ」
ノルダと共に人こみを分けて資料館へ入っていくと人の多くいた空間から本棚が林立する静かな空間へと変わった。
討伐に関する資料のコーナへ行くと、ミルがもうすでに書物を引っ張り出していた。
「ありました、最新守護者データブック」
ミルの開いた分厚い本をノルダと一緒に覗き込むと、見覚えのある守護者が飛び込んできた。アイスバーグフライだ。書物によると守護者は二足歩行、四足歩行、飛行型、など分類があり、アイスバーグフライは飛行型にカテゴライズされるらしい。
「ツドラルさんの言った通りアイスバーグフライのツララ攻撃の弾数とかかいてあるね」
「その他にも体長、最高速度など今までの討伐から得られたデータが載ってますね」
今までの氷鉱夫の先駆者たちの知識が惜しげもなく詰められている気がした。次のページには見たこともない守護者が乗っていた。
「知らないのがいっぱいいるな…全部覚えて帰る?」
いくらなんでも、と思ったが先輩たちに追いつくにはそれしかないと思った。経験不足は知識と鍛錬で補わなくてはいけない。
そこから3人は手当たり次第メモをとり、その対策を自分の鉱技でどうするかを考えた。
「この大氷虫ってやつは集団で氷の中から発見されるらしいな」
「しかも一体一体の装甲が厚く、ビームも打ってくると…」
「首振り続けてないとかこまれちゃうね」
ミルは少し考える仕草をした。
「私なら…範囲攻撃ができますが…そうすると採掘氷場の被害が…」
「僕は斬撃だと…一体ずつしか倒せないな…飛ぶ斬撃のリーチを伸ばして…近づけないように…」
俺は鉱技が応用力重視だからある程度の守護者には対応できるが、裏を返せば自身が守護者に応じて最適な発想をそのたびにしなくてはいけないということだ。
そんな調子で続けていき、データブックの半分、守護者23の特徴を覚えたところで意識が朦朧としてきた。隣を見るとミルとノルダが椅子にもたれかかって寝落ちしていた。
「やばい…眠い…おい…ノルダ、ミル…起き…」
起きたらもう昼過ぎであった。ミルに起こされた俺はあたりをキョロキョロすると、資料館に人が増えていた。
「人が増えてきたので資料館から出ましょう」
「ん‥そうだな」
「あっ、マイン起きた?食堂席とってきたからお昼食べよっか」
ツララ塔には食堂があるらしく、氷鉱夫なら割引が効くらしい。確かに朝から暗記と思考を繰り返したおかげでお腹ペコペコだ。
「席はここだよ」
「窓際とはセンスがいいですね、ノルダ」
「俺が注文してくるよ、なにがいい?」
ミルは肉、ノルダは野菜とアバウトすぎた注文を持ってカウンターの方へ行くと値段表を見て驚いた。肉がすごい高いのだ。
確かに氷に囲まれた社会なので高いのもうなずける。野菜は気温が低いから割と葉物がよく育つ。
プレートに料理を載せて2人のところに戻るとミルがやたら大きい財布を持っていた。
「いくらでした?」
「いや、後払いだから」
さすがNo.1採掘氷場、金貨を持っているらしい。
「てか、マインなんで昼にドーナツを?」
そりゃ頭を使ったから甘いのを食べたいのだ。勉強後に野菜と肉を食うほうが珍しい。
「暗記後の糖分補給だ!いただきます!」
2人もお腹ペコペコだったらしく、半分くらい食べるまで無言であった。俺はドーナツが残り一つになったところで切り出した。前から気になっていたのだ。
「なぁ、2人ともなんで氷鉱夫になったんだ?」
「なんですか藪から棒に」
「まぁいいじゃん。俺はグレンさんに誘われたからだぜ」
約3年前、就職先を探していた時、たまたま誘われたのだ。声をかけてきたグレンさんが迫力がありすぎて最初はびっくりしたが、かなり給料も良く、No.2の採掘氷場と言っていたので断る理由もなかった。
「私は10歳に討伐中の採掘氷場に迷い込んだのがきっかけです」
「18になる前に守護者のことを知ったってこと?」
「そうです、その時守護者に襲われたのですが…」
「わかった!助けられたんだろ、それで…」
ありがちなパターンだ。助けられた相手を目標にしたり、憧れたりするのは漫画とかでありがちだ。
「いえ、攻撃を全部避けました」
まじかよ、ノルダの顔にもそう書いてあった。俺もわそれしか考えられなかった。10歳と言うと小学生じゃないか。
「それでスカウトされました」
「すげえな…ノルダは?どうして氷鉱夫に?」
「うーんとね…うちには電化製品がなくてさ、すごく生活困ってたんだ。だから同じ境遇の人たちを助けたいなって思ったんだ」
素晴らしい理由だ。誘われたからだぜとか言ってた1分前の自分が少し恥ずかしい。
「なるほど、それでコンプス地区に就職ですか」
「うん、採掘量は1番だからね」
「…」
俺はなんか2人と比べて理由が…いや…!大事なのはこれからだ!そう言い聞かせて残りのドーナツに食いついた。
「わっ、どうしたのマイン、そんなに急いで食べて」
「なんでもねえ、これから俺はもっと頑張るぞ!」
いきなりこんなことを言われてミルとノルダがの顔に?マークが書いてあった。
3人が食べ終えて会計を済ませてツララ塔から出ると入ってきた時と逆に冷気が一気に襲ってきた。昼食後の眠気を吹き飛ばすほどだ。
「今日は解散か?」
「私はどちらでも」
「明日は仕事だしあんまり遅く帰ってもね」
そんなわけで2人と分かれて家へ戻ることとなった。だが俺はこのまま直帰する気分ではなかった。守護者の知識を手に入れた上、2人の話を聞いて鍛錬をするやる気が出てきたのだ。
「よし!採掘氷場に顔出してツルハシの素振りするか!」
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