勉強するルーキー

「大体作戦はうまく行ったと言えるだろう。足止め、防御、追撃阻止、そしてフィニッシュ…きれいに決まった」


ツドラルによる反省会は討伐が終わってからすぐ始まった。俺とミルとノルダのルーキー3人は一字一句聞き漏らすまいとしている。


グレンはツララを防ぐために一気にツララを溶かした際に被った水のせいで腹を壊してトイレに駆け込んでいったみたいだ。


「次に個別に言わせてもらうが…マイン…君のツルハシは火力より応用力重視のようだな」


「そ、そうです」


「なら守護者を止めるためとは言え、正面から打ち合おうとするのは控えるのだ」


「はい!」


もっともだ、ミルに助けられてなかったらアイスバーグの攻撃で壁に打ち付けられてだだろう。ということは避けることが求められる。


「次にミル…君の吹き飛ばし攻撃は火力、効果範囲は素晴らしいが、もう少しコントロール力をつけるのだ。ツララだけでなくうちの採掘氷場の控え室の屋根がめくれ上がった」



「そ、それは…すみません」


意外だった。俺を助けてくれたミルが注意を受けるなんて。最強ルーキーと言われていてもベテランからしたらまだ直すところがあるらしい。


「討伐に集中するのは大切だが、氷鉱夫の仕事は採掘も大切だ。採掘氷場の被害は最小限に」



「はい」


「次にノルダ…お前は守護者がアイスバーグフライと前もって知っていたのにツララ塔でデータを見ようと思わなかったか?」


「ゆ、油断してました…」


「ツララ塔に守護者の種類によってデータが取られている。アイスバーグフライは珍しくない守護者だ。ツララ攻撃の本数ぐらいは知っておくことができるはずだ」




「はい…」


割とうまく行ったと思ってた。それはミルとノルダも一緒だったようだ。2人も少し落ち込んでいるように見える。


「次に俺…」


自身もやるのか…ストイックにも程がある。


「ツララを一本撃ち漏らした…後ろにいたマインとミルからは軌道を逸らしたが…反応速度と鉱技の鍛錬により努めることにしよう」



ツララを一本撃ち漏らした?実際全く気づかなかった。しかしそれさえツドラルは自分の反省点とするらしい。



「グレンはトイレに入ってるから割愛だ、これにてコネクト制度テストならびにアイスバーグフライ討伐を終わりとする」



ツドラルはそういうと控え室から出て行った。すぐに外からツルハシを振る音が聞こえてきた。繰り返し聞こえてくるので鍛錬らしい。反省から鍛錬までが短すぎる。


「す、すげえな…ツドラルさん…」


「そうですね…しかし次コネクト制度でお会いする時までには追いついてみせます」


「まじか…なら俺だってやってやるよ!今回色々吸収できたからな!ツドラルさん以外から!」


「何ですって?私からも吸収したのですか?」


「ああ!範囲攻撃は相手の範囲攻撃を防げるってな!」


ミルのツルハシを振るときの初動も興味深かった。一歩前に踏み込むように振っていた。おそらく効率的にパワーを鉱技に伝えるためだろう。



ノルダの相手に切り込む動きも気になった。ツルハシを持ってない方の手をインパクトの瞬間に引いていた。


採掘氷場ごとにルーキーへの指導方針は違うが、2人の技術を真似してみたいと思った。


「それなら僕だってマインとミルさんからもらったよ!」


「私は何もいただいてません」


「な、なんだと!」


そんな時ふとノルダが思い出したように言った。



「あっ!2人ともさ、明日暇かな?」


明日?明日ならカストルフに休暇をもらっているから暇だ。


「そうだけど…明日はツルハシの練習とかしようかな…って思ってたんだよな」


「私もです」


「そうか…ツドラルさんが言ってたツララ塔資料館に守護者の知識を増やしに行こうと思ってね…」


知識、確かにそれは重要だ。ツルハシを振るうことも大切だが、相手のことを知るのもたいせつだ。


現にアイスバーグフライのツララ攻撃の大体の本数を知っていればツドラルに頼らなくても良かったのかもしれない。


「良いなそれ!俺もやっぱいく!」


「ふむ…未発見の守護者以外ならそこで得た知識でこれからも戦える…私も行きたいです」


ノルダも俺やミルと同じような考えだったのだろう。実力の刃は知識によってより長く、鋭くなる。明日は勉強会だ。







ノルダ、ミルと明日ツララ塔で集合すると決めて、ジャス地区に帰る道、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「おいマイン!置いてくなよ」


「グレンさん…俺明日ツララ塔に行ってくるぜ」


「ツララ塔…?なんだ社会見学か?」


「守護者の資料を見にいくんだ」


「へぇ…なぁさっきから笑ってんだ?」



笑ってる?俺が?完全に無意識だった。なんの理由もなしににやけてたらしく、かなり恥ずかしい。


「もしかしてマイン…」


「な、なんだよ」


「同年代の友達できて嬉しいんだな!」


「なっ?!そ、そんなことは…あるけど」




認めたくないがビンゴかもしれない。だって仕方がない、15で働きに出るのが普通なのだ、同年代と過ごすのなんて久しぶりだ。ジャス地区の人たちとは仲良しだがやっぱり同年代とも会話したい。



「わかるぜ、マイン。俺もツドラルがいて助かってんだ」


「ツドラルさんとそんな親しいのか?」


「まぁな、もともと同じ採掘氷場だからな」


どこかわからないがその採掘氷場はとんでも無くレベルが高そうだ。


ジャス地区までの道のりは長いのでもっと聞いてみたかったが、過去の話をあまり突っ込んで聞くのも失礼な気がした。


敬語こそ使ってないがグレンを敬ってるのは確かだ。



「でもまだ会って初日だぜ、もっと仲良くなりたいけど…ノルダとミルのことまだなんも…」


「それはノルダもミルも一緒じゃないのか?知らんけど」


「そうだな…そうだと良いな」


ようやく自宅に着くとどっと疲れが襲ってきた。また筋肉痛がひどいことになってるが、寝落ちする前にやることがある。ツドラルから言われたこと、今日学んだことを目としておくのだ。


「ツルハシの特性に合った戦い方をする…インパクトの瞬間ツルハシまってない方の手をひく…踏み込むように…」


メモし終えて、顔を上げると視界がぼやけて見える。モヤが意識にかかったみたいだ。

早めに寝ることにしよう。メモしたことを頭の中で思い出しながら眠りについた。



目覚まし時計は高くて買えないのでとりあえず早起きするのが俺の癖だ。翌朝起きてすぐに出かける準備を始めた。


顔を洗って、着替えをして、いつもよりぽんぽんとことが進んだ。どこかの氷鉱夫が取り出し、買い取った時計をみると、飯を食ってもまだ20分は出かけるまであった。


子供じゃあるまいし出かけるのが楽しみとは言えないが、もし俺が子供だったら間違いなく楽しみだと言っているだろう。


「よし、戸締りOK!」


ドアを開けるといつもより暖かく感じた。外の温度計をみる2度。まぁまぁ寒くはない気温だ。


「よし!行ってきます!」










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