グンジョウオオタテガミ
カストルフさんのツルハシは派手な装飾がついていた。自分のもらったツルハシ、フォアリベラルと見比べるとこちらは随分シンプルだ。
「カストルフさん、俺もツルハシから炎出せるんですか?」
「ツルハシによって鉱技は違う。グレンさんのツルハシはルビーインパルスと言って炎を出すことができる」
俺のツルハシは黒く、アメジスト色の装飾が付いている。カストルフさんは俺のツルハシについて説明書らしきものを読み上げた。こういうところカストルフさんは結構きっちりしてる。
「フォアリベラル…流通量が極めて少ないレアものだ。鉱技は[課題解決能力]」
「何ができるんですか?」
「最初に言っただろう?これは討伐初心者にぴったりだと」
「は、はい」
「マイン、君が守護者と戦っているとき、必ず[課題]が生まれる。回避しなくてはいけない、跳ね返す必要がある、などね。ルーキーにとっちゃこう言った課題の解決策が分かっても自分のツルハシでどう対応すればいいのかわからない」
確かにそうだ。今俺がグレンさんのツルハシを持ってたとして、どう戦うのか想像がつかない。一つの戦い方に絞るということはそれだけ使い手の工夫と発想、経験が求められる。
「そんな時に役立つのが課題解決能力だ。君がある状況を打破できる明確なイメージを持てばどんな形かわからないが、フォアリベラルは応えてくれる」
「応えてくれる…」
まるで生きているかのような表現だ。討伐をやっていく上での相棒という点では納得がいく。
「みんな…俺のためにこのツルハシ手に入れてくれたんですね…」
「そうさ。 で、問題が一つ」
「ん?」
「君の鉱技性質上、練習ができない。なぜなら相手や状況に応じて能力が変わる、言うなれば受け身のツルハシだからだ。俺たちがマインに襲いかかってもいいがそれはなんか申し訳ない。だからジャス地区第3採掘氷場みんなで第二のプレゼントだ」
「第二⁈」
そんなに盛り沢山なのか!嬉しすぎるぞ、練習場を用意してくれたのだろうか。
「マイーン!これを見ろ」
グンジョウオオタテガミのいる氷の前でグレンさんが俺を呼んだ。なんだ?何をする気なんだ?そんなことを考えていると突飛なことを言い出す。
「これは氷を壊すための爆薬だ!こいつで今から守護者を外に出す!」
「なっ、なんでだよ!」
いやな予感がした。もしかしてカストルフさんの言う第二のプレゼントは…
「チュートリアルだ、マイン!守護者を倒すぞ!もちろん君以外のメンバーで助けながら」
カストルフさんは頼れるリーダーで優しい人だ。この前も漬物を奢ってくれた。が、この時ばかりはカストルフさんがある意味怖かった。仕事後の?初めて使うツルハシで?冷や汗が首筋を流れるのを感じた。
「まじかよ…あぁっ!くそっ!やってやる!」
もらったばかりのツルハシを俺は構えた。グレンが嬉々として爆薬に着火するのを俺は待った。なにがそんなに楽しいのか。
激しい音と光と共にグンジョウオオタテガミが氷から放たれる。青い体毛は針金のようでそれだけで体を覆う盾のようだ。
「さぁ…チュートリアルその1だよ」
「ジーン先輩⁈いつのまに」
突如の現れた一つ上のジーン先輩は毛髪とおそろいの白いツルハシを持って説明をはじめた。
「僕も去年やったチュートリアルだ。だから安心して…まずは相手の動きを止めよう」
グンジョウオオタテガミはこちらへ突進してくる。牙と爪をぎらつかせている。その足が地を蹴るほどに振動が伝わってくる。
「止める…どうやって?」
「出たでしょ、[課題]。考えて、僕は右足を止める」
ジーン先輩はそういうと先に行ってしまった。先輩は細身に似合わぬ力強い踏み込みで一気に加速していく。そしてジーン先輩がツルハシを振り上げ足を狙ったように見える。
「ほら、マイン合わせて!君は左を止めるんだよ!」
「はい!」
はいとは言ったがまだ策がなかった。足をとめる。どうすれば…先輩の声が聞こえる。
「はぁぁあっっ!!」
ジーン先輩は勢いよく地面にツルハシを打ち付けた。地に穴が開く。おれはというとこの局面になっても自分の策が思いつかなかった。
「くそっ!思いつかねえっ!!」
結局足止めに関してジーン先輩の真似をするしかなかった。高くツルハシを振り上げ一気に振り下ろした。地面が割れ、二つの穴にグンジョウオオタテガミはつまづき、足が止まった。
「まぁ…最初は模倣でもいいよ。ナイス」
ジーン先輩はそう言い残すと下がっていった。隣に現れたのはガランとグランの兄弟だ。採掘がやたら早い2人組でよくラーメンを奢ってくれる。
「おう、マイン」
「ようマイン」
「っ、次はどうすりゃ…」
「教えてやろう」
「守護者は大体足を止められると遠距離攻撃をしてくるぞ」
「遠距離…」
次の課題は防御のようだ。遠距離というからにはビームとか投石とかの類だ。ならば、盾が必要だ。しかしあたりにそんなものはない。つまりツルハシを使うしかない
「チュートリアル」
「その2だぜ」
ガランとグランは各々のツルハシを地に突きたてだした。
「「[鋼壁]!!」」
地を揺らしてツルハシが巨大化し、ガランとグランの前に壁を築いた。しかしぎりぎり俺のところまで壁は届いていない。2人は俺の防御を見たいようた。
「今度こそ!」
グンジョウオオタテガミの口から閃光が溢れ出している。何か口からを打ち出すものだと思われた。
今度はツルハシによる防御の策はすぐに思いついた。先ほどの行動を応用する。
「地面にっ…うらぁぁっ!!!!」
思い切り地面に打ち付ける。今度は足止めのためではない。ツルハシを打った衝撃で地盤が一部捲れ上がった。四方を地盤の壁で覆われたおれは光線を迎え撃つ。
光線があたってきた感触が伝わってくる。
地盤の壁は光線をギリギリ防ぐことができたようだ。
「どうだ!防いだぞ!」
ガランとグランに見せつけたつもりだったが2人の姿はもう見えなかった。かわりに隣に来たのは副リーダーのマリーナ姐さんだ。副リーダーだか、発言力があり、それがことごとく的を得ているので採掘氷場の内外で信頼の厚い人だ。
「いいわよ、マイン。次は相手の追撃を抑えるのよ」
グンジョウオオタテガミは足元の溝から抜け出したようだ。膝を曲げてこちらへと飛びかかろうとしているように見える。
「追撃を…ならこうだっ!」
フォアリベラルはまたしても俺のイメージと呼びがけに応じてくれたようだ。刃の反対、持ち手の先からもう一対の刃が現れる。
遠くから追撃しようとしてくる相手を近づけることのないようにする。思い切りツルハシを投げつけた。
「い………けっ!!」
風を切って進むフォアリベラルは見事グンジョウオオタテガミが飛び出すタイミングにあった。グンジョウオオタテガミはバランスを崩し、追撃を阻止することに成功する。ブーメランのように戻ってきたツルハシをキャッチすると次の指示がとんでくる。
「いいわよ、マイン!次は直接攻撃に移りなさい」
「チュートリアルのラストだな」
次に現れたのはグレンさんだった。ツルハシに煌々と炎をともしている。一方でグンジョウオオタテガミはダメージを負っているようだ。
「さてマイン、守護者は気絶させる必要がある。討伐後にどこか遠くにはなすためにな」
「気絶?」
「お前が気絶させろ」
グレンさんに背中を思い切り押され、グンジョウオオタテガミに接近した。あちらも俺を地面ごと切り裂かんばかりに爪を振ってくる。正直避けるのだけで精一杯だ。
「ちなみにお前は気絶させられちゃダメだぞ」
簡単に言ってくれる!避けながら当てるなんて無理だろ!当てられても相手の爪とか足とかだ。
だがそんなところに当てても気絶はしないだろう。……いや、待てよ?ふと思い浮かんだ。この方法なら体の一部にでも当たればいけるだろう。
「いくぞフォアリベラル…!!」
主人に答えるのは地盤シールドとブーメランに続き、今日三回目だ。カストルフさんが初心者にぴったりなツルハシと言っていたのがよくわかった。
ばちばちと音を立ててイナズマを纏ったツルハシを後ろへ振りかぶった。同時にグンジョウオオタテガミも爪突き刺してくる。
「うらぁぁっっ!!!!!」
火花と共に硬いものがあたった音がした。
守護者の力は想像を絶するほどに強く。ツルハシがはじき返されそうだ。だが、諦めない。ツルハシをもう一歩押し込む。意地の勝負だ。
「負けるかァァッッッ!!」
ツルハシのイナズマがグンジョウオオタテガミの体を覆った。
焦げくさい臭いが鼻に伝わってくる。自分の腕も少し痺れてしまったが、たしかにグンジョウオオタテガミの膝が折れるのをこの目で見た。
同時におれの膝も折れる。もう限界だ。
「…や、やった…か」
しかし再びグンジョウオオタテガミの爪が襲ってきた。相手に取っちゃ最後の攻撃だろう。だがこちらはその最後の攻撃を既に使ってしまった。完全に不意を突かれ、どうすることもできない。鉄のような爪を喰らうのを待つばかりだ。
「…くそっ…!」
諦めかけ、ぐっと目をつぶった。が、まだ生きているようだ。
「…まぁ、及第点だな。あとは俺がやってやる」
「グレンさん!」
目を開くとグレンさんがツルハシでガードをし爪を受け止めていたようだ。ガードを傾け、爪を滑らせるように受け流すとグレンさんはツルハシをうちわを仰ぐように振った。
「点火![豪炎衝]ァァッ!!!!!」
雄叫びと共に放たれたツルハシはグンジョウオオタテガミをとらえ、採掘氷場の端までノックバックさせた。
「ふぅ…どうだマイン、討伐は?」
言いたいことがたくさんあった。そもそも突然すぎるし、サポートって言っても最低限だったじゃないか。でも不思議と達成感がある。
「まぁ…しばらくやりたくないな…」
寝転ぶとジャス地区第3のメンバーが近寄ってくる。ニコニコしているが、こっちはもう限界だ。
「おつかれ、どうだったそのツルハシ」
「めちゃくちゃ助けられました、偏った能力のツルハシだったら負けてました」
「そうだろう、やはり初心者にぴったりだ」
カストルフさんの言葉から察するに他の氷鉱夫は偏った能力で討伐を行なっているのだろう。尊敬せざるを得ない。
一体どうやって電撃で防御し、ブーメランで気絶させられようか。
「よし!チュートリアルは以上!暗くなってきたし明日は普通の採掘作業があるからもう帰ろう」
カストルフがそういうと、ほかの氷鉱夫たちも帰っていく。彼らは帰りがけにいろんな言葉をくれた。
「おつかれ」
「まだまだだな」
倒した守護者はどこか遠くにはなすために役人が来て回収するらしい。見てみたかったが、ヘトヘトなので帰ることにした。
一日にいろんなことがありすぎて頭も体も限界だ。誕生日が来ただけでここまで普通は変わらないだろう。いや、でもどこかで18になった氷鉱夫が同じようになっているかもしれない。
俺と同じようにツルハシを渡され、討伐をしろ、なんて言われたらそいつも戸惑うだろう。
ただ、俺には同年代の友人が近くにはあまりいないからわからないが。
氷に隔てられた社会なので15で学校を卒業したあとは皆店をついだり、建築に携わったりして国内あちこちに行ってしまうからだ。
氷鉱夫の友人、かつ同年代、さえできれば今日の苦労を共有してみたいものだ。
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