第6話
「フム、やり過ぎたようだネ。本当はもっと観測していたかったケド、金剛兵が
「御意!!」
ジリジリとやかましく鳴り続ける音に悠雅は困惑していると、一號は悠雅から背を向ける。
「逃げるつもりか!!」
「そりゃあ、逃げるとモ。というか、君らもとっとと逃げた方が良いヨ? のし餅になりたいなら別だけどネ」
「貴様まさか!?」
ケラケラと笑う片倉に克成が怒鳴る。
「秘密基地には自爆用の爆弾仕掛けル。様式美だろウ? 全部灰になれば証拠は残らないし、合理的だネ」
「片倉ァァァァッッ!!」
克成が吼えた瞬間、爆音が轟き、炎と煙が研究室を充した。片倉と一號の姿はいつのまにか失せ、研究室には悠雅、克成、麗一だけが残された。
「喰えない爺さんだ」
麗一が忌々しげに呟く。
「貴様ら、此処を出るぞ」
麗一は炎の中に消えた片倉の背中をいつまでも睨み続ける悠雅と克成の腕を強引に取って、
すると、赤い焦熱地獄から一変して闇色に染まる海に突き出る、波止場に放り出された。
港の方で煙が上がり、炎が逆巻いて天を衝くのが見え、悠雅は歯噛みする。
「クソ……!!」
波間に悔しさが滲んだ声が響く。
悠雅は片倉に後一歩及ばなかった己が憎かった。被験者の遺体を残してきてしまったことがやるせなかった。
片倉を捉えることができればこれ以上悲劇は起きない筈だった。それを止められなかったということが何を意味するのか? 悠雅はこれから悲劇に見舞われる人々を救えなかった、ということに他ならない。
止めなければ。悠雅は憤激と憎悪を燃やす。
「……克成、奴が他に行きそうな場所は?」
「わからない」
「わからない訳ないだろう!! 情報屋なんだろう? 教えろ!!」
「わからないと言っているだろうが!!」
「なんでわからな――」
克成に掴みかかろうとするも、鈍い音が響く。麗一の細腕が悠雅の左頬に突き刺さったのだ。
「いい加減にしろ
「若はなんで冷静で居られる!? あんたは少しやる気が無さすぎるぞ!!」
「確かに貴様ほどの熱意があるとは思わんが、その熱意があれば片倉を止められるのか?」
「だが、急がねばまた人が死ぬ!!」
「急がねばならないからこそ、冷静に動かなければならないはずだ。違うか?」
麗一の言葉が沁みるまで僅かに時間を要した。悠雅はやがて座り込むと、苛立ち隠すことなく頭を下げた。
「申し訳ありませんでした、若。それに克成も。少し熱くなりすぎた」
「別に構わない。お前が激情家だというのは織り込んで日頃行動している」
「鬱陶しい限りだがな。それに加え、今宵は鳴滝。貴様も中々に鬱陶しかったぞ」
「今晩のことは忘れろ。それより一旦解散するぞ」
「片倉を追わないのか?」
克成の提案に、悠雅は思わず口を尖らせる。
「もうすぐ空が白み始める頃合いだ。そろそろ、戻った方が良いだ――」
「ああ、そういえばそうだった。もうすぐ四時。もう帰らないとな」
愛用の懐中時計から視線を上げると、克成と麗一は奇天烈な顔つきのまま凍り付いていた。
「若も克成も何でそんな間抜け面してんです? せっかくの美貌が台無しですよ? って、こんなところでいつまでも道草食ってる場合じゃねえや。バレる前にとっとと帰ろう」
「へえ、どこの?」
「誰にバレるって?」
「そりゃあアーシャとおじょ、う……に……」
刹那。悠雅、凍りつく。
かたかたと、出来損ないのからくり人形のように、悠雅は、振り返る。そこには――
蜂蜜色の
濡れ羽色の
二人、綺麗に並んで。いやに綺麗な笑顔で。悠雅、悟る。
虎の尾を踏みつけながら、龍の逆鱗に触れたのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます