第五話 来訪者

 ~ベルグラディス・ミュラーゼ邸~



朝、傭兵所へ向かおうと支度をしていると玄関の方から声がした。

この声は……テュシアと、トリル?

私は玄関へと向かった。


「あ、おはよ! リ、あ……」


「……」


テュシアはぎこちない笑顔を浮かべている。

家の中だからか、ついリアと呼んでしまったようだ。

トリルは全然気にしていない様子。

そのトリルが少し焦った様子で私に話し掛けてくる。


「アイディールお姉ちゃん、おはようございます!」


「うん、おはよう。急いで来た? 何かあった?」


「あのね、傭兵所に王国騎士さんが! 今日の朝入り口の扉を開けたら突然」


私はテュシアと目を合わせる。

王国騎士が? 一体何の用だろう。

トリルは続ける。


「国からの命令で少しの間傭兵所に滞在するって……」


王国騎士が滞在? 王国にとって脅威でもなく何の影響力ももたない傭兵所に?

なるべく接点を持ちたくはなかったけど、向かうしかなさそうだ。



~王都ベルグラディス・傭兵所~



私はトリルと共に傭兵所へと到着し、傭兵所の扉を開ける。

扉の先には居心地が悪そうに端に寄り座っている傭兵達と、受付の前にいる一人の女。

扉を開けた音で皆の視線が私の方へと向き、受付の前にいた女が振り向き私の方へとやってくる。


「あ! あなたも傭兵さんですか? 初めまして、私はカルネ・ファーネル。ここベルグラディスで王国騎士をしてます。気軽にカルネって呼んで下さいね!」


王国騎士と名乗っておきながら気軽に名前で呼んでくれとは無理な注文だ。

まあ私は王国騎士だろうとなんだろうと様付けをしたりするつもりはないけど。

というよりもこの女……私の嫌いなタイプだ。なんとなく分かる。


「それで、王国騎士が傭兵所へ何の用?」


私の冷たい対応にも目の前の王国騎士は表情一つ変えることなく笑顔だ。


「ざっくり言いますと、皆さんのお手伝いをします!」


ざっくり過ぎてよくわからない。

私を見て察したのかカルネは言葉を続ける。


「詳しくは言えないんですけど、王国はこれからとある大きな計画の為に動き出します。そこで、今まで王国の兵士でやっていた調査や警備といったものの一部を傭兵さん達へ回す事になりまして」


大きな計画……。


「今まで以上に依頼が増えると思われるので危険な依頼や人手不足の時は私が手伝いますから気軽に声を掛けて下さい、ね!」


「そう。別に私に関わらないでくれればそれでいい」


私はそう言い残し、その場を後にした。


王国が何か大きな行動を起こそうとしているのは嘘じゃないだろう。

しかし、依頼が増えるとはいえ、兵士ならともかく四人しかいない王国騎士の一人を傭兵所へ送るだろうか?

何か裏があるに違いない。

それをあのカルネとかいう女が知っているかは分からないけど、警戒するべきだ。

カルネ・ファーネルについてはテュシアに聞くとして……。


「アイディールさーん! 待ってください~!」


この声、噂をすれば。


「何か用?」


私を追ってきたカルネは一枚の紙を差し出した。

依頼書? なんでわざわざ。


「これ、王国からの依頼なんです! 中々危険度が高いんですよ~!」


この顔は何か嫌な予感がする。


「と、いうことで! 私と一緒にこの依頼を受けて下さい!」


「お断り、他を当たってどうぞ」


「そんなこと言わずに~!!」


この後、数時間に渡り付きまとわれ、私は仕方なくこの依頼を受けることとなった……。

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