第六話 復讐
~王都ベルグラディス・傭兵所~
カルネが傭兵所に来てから早くも一週間、彼女はびっくりするくらいこの場に溶け込んでいた。
王国騎士であることから最初は身構えていた傭兵達も今では気軽に接している。
個人的にはなんだか気に喰わないけれど、これはカルネ・ファーネルという人物の持つ一つの魅力として認めざるを得ないのは事実。
さて、何か依頼を受けようかと思っていると、傭兵所の扉が勢いよく開けられ、兵士が入ってきた。
「お前達、この男を見てないか!?」
兵士は男の顔が写った紙を傭兵所にいる全員に向け見せてくる。
見たこともないし、来てもいない。
皆が同じ反応だった。
ただ、一人だけは兵士に事情を聞く。
「何かあったんです?」
兵士はここに王国騎士がいるとは思わなかったのか、驚いた様子で答える。
「か、カルネ様。これは失礼致しました。この男が今日釈放された人物をいきなり剣で斬りつけ現在逃走中でして……」
「なるほど、じゃあ私も探すね!」
カルネと兵士は傭兵所を出て行った。
釈放されたばかりの人物を斬りつけた、誰でも良かったとは思えない。何か理由がありそうな気がする。
理由が気になった私は、その逃走中の人物を探しに出ることにした。
~王都ベルグラディス・広場~
さて、とは言ったものの王国は大量の兵士を使い捜索をしている。
逃走中の男が捕まるのは時間の問題だろうし、闇雲に探したところで先に見つけられる可能性は低いだろう。
ここは……ん? あれは。
「あれあれ、そこの可愛いお嬢さん。その顔は何かを探していますね??」
テュシアだ。この先の行動を読まれている感じは信頼していながらも時々怖くなる。
「シア、わざとらしい……。全部お見通しなら力を貸してくれる?」
待ってましたと言わんばかりの笑顔。
「お探しの逃走中の人は……あ、その場所に直接転移した方が早いね!」
私は人目の付かない場所へ移動し、転移魔法を掛けてもらう。
すると、足元に魔法陣が浮かび、逃走中の男がいると思われる場所へと転移する。
~王都ベルグラディス・???~
「ッ! く、来るな!」
転移した先、目の前には一人の男。
近すぎるよテュシア……。手には血の付いた剣を持っている。
「私は追っ手じゃないし、敵対するつもりもない」
「じゃあ何だ? どうしてこの場所が、それに急に目の前に現れるなんて」
「ちょっと興味があっただけ。釈放されたばかりの犯罪者を斬りつけた、その理由が」
男は剣を握る手に一層力を籠め、語る。
「あいつは俺の娘を殺した殺人犯……なのに若いからと言って死刑どころか十年経たずに出てきたんだ。こんなのおかしいだろ? 俺の娘は帰って来ないのにどうして加害者には未来がある?!」
そうだ、世の中は理不尽だらけで、狂っている。
はたしてそれを我慢し呑み込むことが偉く賢く大人なのだろうか?
「違う……」
「は?」
「あなたは正しい。取り戻しの付かない過ちを犯した奴は謝ろうが反省しようが未来等与えられるべきじゃない。同じ方法、もしくはそれより苦しめて後悔させて死ぬべき」
男は私の反応が予想外だったのか少し驚いた様子で止まっている。
私は思ったことを続けて話す。
「それだけやっても殺された娘さんは帰ってこないし、本来あるはずだったあなたの生活は戻ってこない。でもこの世界はそれすら認められない。加害者に優しく、被害者に冷たい世界」
「そうか。分かって、くれるんだな。俺が捕まるのは時間の問題だろう。でも、その前に君みたいな子に出会えて良かったよ。欲を言えば犯人は確実に殺したかったが……」
「諦めるにはまだ早い。そんな奴が生きていて良いはずがない。あなたにやり遂げる覚悟があるばらば私が協力する」
「それは勿論だが、君は、一体……」
少し遠くから足音が聞こえる。
「誰かが近付いてきている。一旦引きましょう。あなたの復讐は必ず成功させてみせる。だから少しの間指示に従ってもらえる?」
男は頷く。
それを確認した私はテュシアに脳内で語り掛ける。
「シア、聞こえる? 傭兵所の地下、今私がイメージする場所に転移をお願いしたいのだけれど……」
答えはすぐに返ってきた。
「りょうかい~! 任せて」
足元に魔法陣が浮かび、私と逃走中の男は一旦傭兵所の地下へと転移した。
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