第8話 打ち合い

 ダーカスの腹を貫いたロサインの左手から赤い血が垂れる。俺が放った魔法石を用いた最大の攻撃を受けてなお、やつは……。


「なんで……!?」


 確かに奴の体にはダメージが見られる。というより、おそらく右半身はほとんど動かないんじゃないだろうか……。見るからに痛々しいダメージをおっており、右手をだらんとさせている。


 だが、当の本人は左手で胸を押さえつつ不気味に笑う。

「ククク……、ふふふふふっ、ふっはははははっ……ヴゥっ!?」

 一度ロサインの身体がガクリと崩れ掛け、口から血が漏れる。だが、それでもなお、笑いをやめない。


「ふふふっ、……なんという刺激……脳が震える……全身が痺れる! あぁ……、これこそまさに……戦い! ごふっ!?」


叫ぶと同時、さらに吐血を重ね、地面に向かって血を吹く。


「……お……おい、お前……身体……」


「あぁ、そうだね。わたしの体はもうやばい。右半身がおじゃんだし、おそらく内臓もひっくり返ってぐちゃぐちゃになって、焼かれたかもしれないね……、でも、わたしは、まだ……戦えるらしい。


 いや、戦う気しか起きない! やっとくだらなくつまらない平和から解放され、究極の刺激を味わっているのに、ここで辞めるなど……愚の骨頂!!」


「……そんなお前こそ、愚の骨頂だろ……」

 あまりのサイコレベルにドン引きさえしてしまう。


 だが、それでも、ロサインがなお俺の前に立ちふさがっているのは事実。こいつは……まだ戦う気だ。


「さぁ……新人クン。続けようじゃないか。確かにダメージはかなり負ったが……まだ、君を倒せる力程度なら残っているぞ」


 右足を引きずりながらも一歩前にでるロサイン。途端に、再びロサインの体からエネルギーが溢れ出す。今尚溢れ出す強烈な熱に思わず一歩を引いてしまった。


 いや、ただの熱だけじゃない。こんな状況でありつつも、けっして変わらない殺気が、俺の体を締め付けてくるのだ……。


 ロサインが左手を大きく振りかぶってみせた。計り知れないエネルギーがその左手から溢れ始める。


 けど……、ここで引くわけにはいかない。

「いい加減……くたばらせてやる」

 俺もぐっと腰を落とし、右手に再び力を込め始めた。


 ついさっき、巨大な魔法を放ったがそれはほとんど魔法石に頼ったもの。まだ、俺の中にはエネルギーが残っている。体のダメージ自体も、そこまではない。


「はぁああああ……」

 俺の右手に再び炎が灯り始めた。


 ロサインの左手と俺の右手。ひとつの空間内にて、激しい二つのエネルギーが空気を揺らす。やはり、ロサインの左手からは、さっきまでの強烈な力は感じられない。むろん、それでも十分巨大なエネルギーだが……。


「ふふふっ、最高じゃないか……。まさに至高の戦闘だ」

 ロサインが笑うと口から血が流れ落ちる。だが、ロサインは全く気にせず前に向かって体重をかけた。


「これで……終わりだ……死ねぇ!!」

 ロサインが左手を前に突き出し、激しい閃光。


「ダァアア!!」

 俺も負けじと右手を突き出した。


 その瞬間、俺とロサインの間で激しいエネルギーの衝突が始まった。瞬間的に発生した衝撃が地面を揺らし、大地を削る。

 激しい爆風の波が押し寄せる中、俺は歯を食いしばってエネルギーを送り続ける。


「ぬぅ……くぅ……、はぁああ……」

「ふふふっ、ふははははっ!!」


 なおもエネルギー同士の激しいぶつかり合いが続く。その有り余るエネルギーが、炎や電気、熱や風となり、大気に散らばる。


「かぁ……くそっ……なんて奴……」

 もう、ロサインは明らか満身創痍といっても過言ではない状態のはずだ。なのに、なぜまだこれほどの力を発揮できる!? 化け物にも程がある……!?


「ふふふっ、ごふっ!」

 ロサインは口から何度血を吐こうとエネルギーを流し続ける。


「だけど……もう……、ここで勝つしか……ねぇ!」

 俺は強引に前に向かって体を押していく。いくらなんでも、奴はもう限界だ。なにがなんでも、このまま全力で押し切る。押し切ってみせる!


「こ……んの……やろ……」

「ふふふっ、くっ……くぅ……ガハッ……ッ! いいねえ……見事だ……」


 俺は最後の力を振り絞り、全力をもってエネルギーを注ぎ込む。

「くたばっちまえ!! ……ダァアア!!」


 その瞬間、一気にエネルギーが押し込まれた。ロサインが放っていたエネルギーもろとも、ロサインの体を飲み込んでいく。

「くぅ……おぉ……」


 やがてエネルギーの塊となり空を飛んでいく。そのまま、いくつもの大木をなぎ倒したあと、地面に巨大なクレーターを作り上げ、沈黙が訪れた。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 俺は何度も荒い息を繰り返しながら地面に崩れるように座り込んだ。


 そのまま、しばらく時間が過ぎるが、もうロサインはこちらに向かってこない。……ついに……奴を……、ロサインを……戦闘不能に……追い込むことができた。


「……はぁ」


 俺はそれを確信すると、深い溜息をつき、地面に寝転がったのだった。もはや、「勝った」と叫ぶ力も残っていなかった。

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