第7話 全力最大攻撃

 俺はセロから渡された魔法石を握り締め、ロサインを見据えた。

 とにかく一発だ、重い一撃をやつに叩き込む。


「……セロさん……怪我しているとこ悪いですけど、少し時間を稼いでくれますか……」

「言われなくてもねぇ」


 右手を抑えながらも、俺の前に立つセロ。ロサインの前に立ちふさがる……。その間、俺は右手に全力集中し始めた。


 ロサインに向かって飛び出すセロ。


「わたしには分かる。君は雑魚だ」

 ロサインのが瞬間的に姿を消したかと思えば、セロの背後から攻撃を叩き込んでいた。


 だが、今は集中。すると、手の中にある魔法石から強烈なエネルギーが流れ出してくるのを感じた。今の自分では計り知れないほどのエネルギーが、この鉱石に詰め込まれている……。


 これが……魔法石……。


「おや? 立ち上がるのかね? はっきり言おう。君はわたしの相手にはならない。それは、無意味な行動というものだよ」


 たった一撃を受けただけでもかなりのダメージを負ったらしい。セロが体を震わせながらも立ち上がる。


「あ、そうそう。新人クン」

 急にものすご勢いで首を俺のほうに回すロサイン。

「力の全てをその右手に注ぎ込もうとしているのかもしれないが、無駄だ。君の力全てをぶつけてきても、わたしにはけっして届かない」


 そう言いながらロサインは俺に向かって右手を突き出した。その右手から炎が揺らめき始める。


「もしかしたら、魔法陣のバリア程度から破壊できるかもしれないが、それも実質不可能だ。なぜなら、わたしが君にトドメをさすからだ」


 ロサインが不敵な笑みを浮かべる。

「くたば……っ!?」

 だが、その瞬間ロサインの右手が風の魔法で揺らされた。それによって、ロサインが放った炎があさっての方向に飛んでいく。


 

「おやおや、雑魚クン。頑張るではないか」

 ロサインが後ろを振り向く。そこには、魔法を放ち余韻を残しているセロの。息を切らしながらも、今度はロサインに手を向ける。


 が、セロの魔法が放たれるより先、ロサインの拳が深くセロの腹に入っていた。

「しばらく休んでいたまえ」

 そのロサインのセリフとともに、意識を失ったのかセロは力なく地面に倒れこんだ。


「さて、新人クン。そろそろ、死ぬか?」

 ロサインが再び、こちらに顔を向けるとゆっくり歩み始めた。対して俺は力を貯めた右手を後ろに振りかぶる。


「……」

 そして、ロサインを見据える。


「クククッ、チャージ完了か……。その一撃に全てを込めるって感じかな? では、その一撃を、さらっと避けて、虚しい空振りに絶望する君の顔だけは見ておくとしよう」


 ロサインは少し離れたところで停止し、両手を広げた。

「さぁ、放ってくるがいい。最後にからぶる一撃を」


 俺は右手を振りかぶりながら、何度もロサインめがけて攻撃を放つシミュレーションをしてみる。だが、何度やっても簡単によけられる未来が見えてしまう。

 当然だ、相手は万全の態勢でいるのだ。そんなところに打ち込んでも当たるはずがない……。


「どうした? 悩むだけ無駄だぞ? この攻撃を放たなければ君は死ぬ、絶対に。こはやこの状況でわたしに隙ができることはない。

 であれば、奇跡を信じて打つがいい。自分の更なる幸運を祈ってな」


 俺の額から汗が限りなくは触れ出てくる。それを拭うことすらできない。ただただ、右手を振りかぶって待機。

 どうすればいい……。


「ケイジ!!」

 突如だった、森の奥から何かが飛んでくる。次の瞬間、それはロサインに体当たりをし、ロサインを軽くよろけさせた。


「なっ!? ダ……ダーカスさん!?」

「打て!!」


 俺はこれ以上の疑問を振り払った。一歩よろけるロサインに向かって一歩を踏み出し、右手をさらに振りかぶる。


「ダァアアア……」

「グッ……無駄だ! 君の力では……ん?」


 ロサインは態勢を崩しながら俺の右手に軽く視線を送る。

「まさか……魔法……石?」


「ハァアアアア!!!」

「し……しまっ」


 俺の右手から計り知れないエネルギーがはじき出された。そのエネルギーは熱となり光となり、爆発となる。


「グゥゥウ……この……」

「……!? ま……まだっ!?」


 右手から流れ出続けるエネルギーを受けてなお、向こうからロサインの声が聞こえてくる。耐えてやがる!?


「まだまだアアア!! ラァアア!!」

 俺はさらにエネルギーを込めた。魔法石から溢れ出る力全てを前方向に突き出し続ける。


「こ……こんな……程度……ぅ……うぅわぁあ!?」

 それが最後だった。強烈な爆炎と爆発とともに、ロサインの声は掻き消える。ただただ、俺の前で強烈な衝撃が弾けた。



 激しい地面の揺れとともに煙が舞い上がる。やがて煙が晴れてくると、俺の目の前に超巨大な穴が空いていた。


「はぁ……はぁ……」

 ちらりと覗いてみるが穴の底が見えない。直径も数十メートルに及ぶ。本当に果てしないエネルギーがロサインに叩き込まれたようだった。


「……さすが……見事、ケイジ」

 そんなセリフを聴いてハッとその人物のほうに顔を向けた。そこには、ゲルプイーグルの副団長、ダーカスの姿。


「ダーカスさん……なんで?」

 ダーカスもまた、かなり満身創痍といった感じだ。本当にさっきのロサインに対する一撃が振り絞った最後だったのだろう。


「……セロに言われてよ……ケイジに攻撃当てる最後のチャンスを作るまでが、奴の作戦だったわけだ」


「……そ……そういうことか……」

 本当セロは凄い。戦い方を本当に理解している……、やっぱり経験の差はでかいらしい。


「とにかく、ありがとうございました」

 そう言って俺がダーカスに向けて手を伸ばそうとした。


 が、


「……っ!?」

 肉をえぐる不快な音。それと同時にダーカスの腹から猫の手が嘘みたいに突き出ている。


「……ク……クク……聞いたぞ……今のはな……」

 ダーカスの背中から聞こえてくるのは……死神の声だ。


「……は!?」


 俺が疑問で頭の中がいっぱいになる中、ダーカスの腹からその左手が引き抜かれる。バタリと崩れ落ちるダーカスの後ろで、ロサインは確かに立っていた。


「流石に……死ぬかと思った……が、残念だったな」

 そうして、ロサインは不気味に笑うのだった。

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