第6話 希望はまだ残っている

 山がひとつ消し飛んだ攻撃を目の当たりにし、改めてその驚異的な力を持つ敵、ロサインのやばさを実感していた。


「……まじかよ」

 俺だって初めてロサインと対峙した時に比べたら相当強くなったはずだ。おまけに今は若干のドーピングだってやっているんだぞ?

 なのに……決して埋められないこの実力差はなんなんだよ?


「クククッ、随分と怯え始めたようだね。もっと粋がってくれてもいいのだよ。自信を持って挑みに来るといい」

「……っ」


 一応構えは取り続けるが……このままじゃどうあがいても勝てそうにない。少なくとも、物理的にこいつを倒すのは無理だ……。こうなれば、別の勝利を取りに行くしかない……。


「かかってこないのか? それとも、どうやって逃げようか模索でもしているのかな? ならばはっきりと言う。もう逃がす気はないよ。散々、わたしは君を逃がしてきたからね。もう、十分だろう」


 今の俺にとって、こいつにかつ意外の勝利は……解毒剤を何とかして手に入れて、かつ魔法陣を破壊すること。最悪、これさえ成し遂げればミッションは成功する……。


「もう、悩んでも遅いぞ。君はもう、わたしに立ち向かって死ぬ以外の運命はない。なぜか? 相手がこのわたしだからだ。

 わたしが君の前に立つ限り、選択肢はない」


 俺はロサインに顔を向けつつ、その向こうを見た。視界の先には魔法陣の光……、行けるか?


 いや、迷っても意味はない。他に選択肢はない!

 俺は意を決し空をけった。ロサインの後ろにある魔法陣めがけて突き進む。


「そうだ。わたしに立ち向かうと……ん?」

 俺がロサインの横を通り過ぎるとそのまま、一気に魔法陣との距離を詰めていく。


「ちっ、そっちが狙いか!」

 一歩遅れてロサインが俺の後を追ってきた。


「なっ!? くそっ、なんてスピードだよ!?」

 こっちが全力で魔法陣に向かって突き進んでいるのに、その差をグングン縮めてくる。いったい、何割増のスピードだと?


 だが、あと数百メートル。今のスピードなら一瞬でたどり着ける。

「ふふふっ、君はたどり着けないよ」

「なっ!? もうそこまで!?」


 ふと、後ろを見ると、ロサインはすぐそこまで迫ってきていた。もうロサインの手が俺の足に届く。

 これは……魔法陣にまで届かない……!?


「ハァアッ!!」

「ッ!?」


 突如だった。俺の後ろで衝撃音が鳴ったかと思えば、ロサインが方向転換し飛んでいく。

「……セロ!?」

「行け!」


 どうやら、セロがロサインに一撃を入れてくれたらしい。だが、それ以上の思考など今は無意味。先にある魔法陣に向かって手を伸ばす。


「解毒剤! それさえ手に入れられれば!」

 が、俺の体が魔法陣に突っ込むその時、目の前で強烈な閃光が走った。それに合わせて、まるで見えない壁に阻まれたかのように俺の体がはじけ飛ぶ。


「がっ!?」

 バランスが崩れた俺の体は勢いを殺すことなく地面に激突、何回も横転しながら最後、木に当たり停止した……。


「……!? なっ!?」


「ふふふっ、ざ~んねん!」

 どこからともなく聞こえてくるロサインの声。かと思えば、向こうから体を回転させ飛んでくるロサインの姿が目に入った。


 綺麗に木の枝に着地する。


「念のため、バリアを発動する魔法陣を重ねがけておいていたんだよ。何しろ、触媒が優秀な魔石で魔力も余っていたものだからね。余りから生まれたおまけの産物だが、かなり役立ってくれたようだ」


「……バ……バリア?」

「ふふふっ、なかなか迫真の演技だっただろう? それなのに必死に魔法陣に向かって走る君を見ていたら……実に愉快だ。傑作だよ」


 本当に愉快そうに笑いこけるロサイン。だが、ギロリと視線をさきほど、蹴りを入れたセロに向けてみせた。


「だけど、そのわたしの演技の途中で台無しにしてくれた人がいるようだね? まだ、くたばっていないものがいたというわけか」


 改めて俺もセロのほうを見た。セロは既にダメージを受けている状態。やはり、既に一度ロサインにやられた後なのだろう。


「セロさん!」

 俺はロサインを警戒しつつ、ひとまずセロの元に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「う~ん、まだ命に別状はない程度かなぁ」


 そう言ってセロは自分の右手に視線を送った。どうやら右手は負傷してほとんど動かせないらしい。

「だけど……申し訳ないねぇ」


「……何がです?」


「僕じゃぁ、対して役に立てそうもないからねぇ……」


 セロがこちらに向かって余裕の笑みを浮かべるロサインに視線を向けた。


「仲間同士で相談かい? いいさ、存分に作戦を考えるといい。一矢報いることぐらい、できるかもしれないね」


 そんなロサインの言葉を聞き流し、セロと顔を合わせる。

「別にやつを倒しきらなくてもいい……。マトの解毒剤と魔法陣破壊さえできれば、この場では俺たちの勝ちだ……。

 その隙をセロさんに作って頂ければ……」


 と、行ったとき、セロが俺の手を叩いてきた。かと思えば、手に何かを握らされる。手の中を見ると青く輝く鉱石が手の中にあった。


「……これは?」

「魔法石、これを触媒にしたら、巨大な魔法を叩き込める。今の君ならできるよぉ」


「……セロさんっ」

「なんとしでも……奴に叩き込め」

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