第5話 ロサインの本気

 次の攻防に向けて空中で戦闘態勢を取り直す俺。対してロサインは音もなく空を進み俺に近づいてきた。


 攻撃が来るのかと思い防御態勢をとる。


 ロサインの手が上がると同時、俺は反応しようとした。だが、そんなロサインは攻撃に移ろうとせず、代わりに口を開いた。


「新人クン。君の実力はよく分かった。そして、これからまだまだ伸びるであろうことも十分理解したよ。

 それを踏まえて、是非君に提案しておきたい」


 ロサインがゆっくり俺のほうに手を差し伸べてきた。

「わたしとともに来ないかね? 最後のチャンスだ」


 そんなの端からお断りする以外の選択肢はない。だが、それでもひとつの可能性にかけてみたい。


「……その提案の乗ったとしたら、解毒剤は貰えるのか?」

「わたしの下へ来るのならば、それは必要のないものだ」

「だったら当然、お断りだ! 分かっていただろう?」


 するとロサインは口に手を当てクツクツと笑う。

「はっきり言おう。本当に悲しい。仮にも同じ転移者。いきなり知らない世界に飛ばされたもの同士として、共に生きたいと本気で思ったのだがね。


 それに……なにより惜しい。君はこれからさらに強さを増していくのは目に見えてわかる。このまま待っていれば、このわたしすら超えてくるんじゃないかと本気で思える程だよ」


 ロサインは笑いを止めて顔を手で覆う。さらに体を震えさせる。

「だけど、そんな逸材でも、今ここで殺さなければならない……。将来有望な君をここで消さなければならない。あぁ……あぁ……なんと……なんと……。


 素晴しぃッ!!」

 震えをピタリと止めたかと思えば、両手を広げ、天を仰ぎだした。


「はぁ……、なんてワクワクするイベントだ。あぁ、心の底から血がたぎる。ふぅ……はぁあ……、これこそまさに戦い!

 強者が弱者を踏みにじる! あぁ、まさに快感!!」


 ロサインは凶悪な笑みを浮かべ俺に睨みつけてきた。

「わたしのもとに来ることは絶対ないと分かった。ならば、もう容赦する必要はない。全力を持って、君を楽しみながら殺すとしよう。


 さぁ、絶望を楽しむがいい。そして地獄の果てで苦しめ!」


 突如、ロサインの体を中心に爆発が引き起こされた感覚に陥った。それはロサインの体から膨大な光と熱、爆風が生み出されたからだ。

 その力に耐え切れず、俺は全身を丸め込み、顔を手で覆った。


「くぅ……!!」

 計り知れないエネルギーが辺りを支配する。やがて、エネルギーの流れが少し収まる頃、その先に化け物がいた。


 俺より少し上の上空に位置を取るロサイン。


 奴を見た瞬間、完全に背筋が凍った。たった一瞬目があっただけなのに、そのやつの奥から感じる計り知れないパワーが身を凍らせたのだ。


「あぁ……」


「……さぁ、戦争だ」

 不敵な笑みがロサインの顔から浮かび上がった直後、俺の頭は吹き飛ばされていた。


「……!? ガァッ!?」

 数メートルはじき出されつつ、俺は体を停止させる。


 勢いを確かに感じながらも、必死に顔を奴に向けた。慌てて構えを取り直す俺に対し、ロサインは余裕の笑みで攻撃後の余韻を残していた。


「……っ?」

「うん? どうしたのかな?」


 追撃してこないロサイン、明らかに弄ぶ気だ。

「糞が!!」


 拳を振り上げロサインめがけて突っ込む。だが、その拳はいとも簡単に回避される。とたんにくる腹への衝撃。

 ロサインの思い一発が俺の腹に叩き込まれていた。


「……がっ!? ……なっ!?」

 目の前で不敵な笑みを浮かべるロサイン、その顔を見つつも俺の体が落下していく。


 少し痛みが治まり、落下を停止させようと踏ん張るが、その瞬間ロサインの足によってけり落とされた。

 果てしない衝撃が背中に入ると同時、地面に叩きつけられる。


 それでも体をそのまま地面で回転させ起き上がり、奴のほうを見る。

「遅いよ」

「……え? っ!?」

 だが、そこに奴の姿はなく、代わりに後ろから後頭部に蹴りを入れられていた。


 その衝撃で一瞬視界が揺れる。だ、なんとか気合で受身を取った。そのまま地面を蹴り上げ、ロサインに向かう。


「だぁあああ!!}

「ふっ、甘い!」


 だが、その俺の拳が当たるより先にロサインの蹴りが俺の頬にヒットしていた。リーチという面なら間違いなく俺のほうが有利なのに、攻防はことごとく負け。


 地面に崩れ落ちた俺は、膝をつきながらロサインを見上げた。

「はぁ……はぁ……」


「ふふっ、どうかな? わたしの本気は? 楽しんでくれているかい?」


 そんなセリフを吐いたかと思えば「そらっ!」と、拳を突き出してくる。それをかろうじて空中に飛び逃げる。


 空中より地面に居るロサインを見据える。そろそろ、一発ぐらい当てないと……。

 俺は魔法を放つため右手に力を入れる。


 対してロサインはゆっくりとした動作で右手を俺のほうに向かって伸ばしてきた。かと思えば、次の瞬間、強烈な閃光が走る。


「っ!? っぐっ!?」

 身体を強引に反らしたすぐその横を光が擦過。すると、その閃光は後ろにある山に激突。と同時に強烈な光を放ちながら爆発を起こしていた。


「なっ!?」

 一キロは離れている先にある山から空気の衝撃が数秒遅れて伝わる。その頃には、山の形が変わるどころか、山自体が消し飛んでいた。


「よく避けたね。当たっていたら、君の体は今頃一瞬で蒸発していたよ」

「……」


 ロサインの強烈な一撃を目の当たりにし体中から冷や汗が吹き出た。そして、思い出すのはあるとき言ったマトのセリフ。


――その気になれば、世界を地獄に叩き落とせるよ――


 マトが自分の力のレベルを説明するために言ったセリフ。

 そして、そのマトと同レベルの実力を持つロサイン。


 こいつも……本当に世界を地獄に叩き落とせる力をもっている。

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