第5話 戦闘狂

 俺に向かって手を向けてくるロサイン。その手に炎が宿り始める。

 今の俺じゃあ……この攻撃に対応できるかどうかも……。


「……なんだ? 少しは足掻いてみないのか?」


 俺は右手を抑えつつ、ロサインを見た。

「……どうせ勝てない……からな」


 もう、ここまできたら、できる限り楽に終えたいと思うぐらいだ……。万全の状態でも勝てない相手に……ボロボロの状態で……。


「……つまらないねえ」

「っ!?」


 ロサインの手から炎が消えたかと思えば、次の瞬間目の前に来るのはロサインの体。拳が腹に突き刺さり、俺の体は地面を転がっていく。

 軽い一撃ではあったが、今の体にはやたらと響く。


「ガハッ!?」

 もう、立ち上がろうともせず仰向けに寝転がった。


「……せめて……楽に殺せよ」

 最後の願いという感じにロサインに敗北宣言する。が、待てど一向に次の一撃は飛んでこなかった。


 不思議に思い、無理して頭だけ上げると、俺の目の前でロサインは突ったっていた。


「少し、君に聞いておきたいことがあったんだが、いいかい?」

「……なんだよ」


 ロサインは俺を見下ろしながら、俺の顔の横まで歩いてきた。そしてしゃがみこんでくる。

「君も、転移者だったりするのかい?」


「……テンイシャ……?」

「この別の世界からきた人じゃ、ないのかね?」


 ……俺はロサインの言葉に驚きはした。だが、たいしたリアクションを取る体力も残っていない。ただ、縦に首を振った。


 それを見たロサインは大きく高笑いをし始めた。

「そうか。やはり、君もそうだったか。君の雰囲気に違和感があったんだが……やはり。

 ここまできたら分かるだろうが、一応言っておこう。わたしも転移者だ。元々はこの世界の住民ではない」


 ロサインはそう言いながら、俺の顎に手を当てぐいっと上げてきた。

「と言っても、わたしがした世界にはたって喋る珍妙な猿はいなかった。君が元いた世界ともまた、別世界ということかな?」


 さらに顎を押し上げ、俺の顔を見つめてくる。だが、やがて乱暴に手にを離した。

「ところで、君がいた世界では、戦争は耐えなかったかい? ずっと続いていたかい?」


「……な……なにを……がっ!?」

 質問の意味を聞こうとしたが、ロサインの蹴りが頬に入る。問答無用だということはよく分かった。


「……あったよ」

 なので、そのまま答えた。俺がいた国でこそ、戦闘とは縁がなかったが世界では戦争が耐えなかった。


「そうか、それは素晴らしいな!」

「……は?」


 あまりに的外れなセリフに思考が飛んでしまった。


「なにを心外だとでもいうような顔をしている? 素晴しいじゃないか。戦争とは互いに競い合うこと。なによりの刺激! 科学の進化の象徴だ!

 戦いほど、至高のものはない!」


 両手を広げ、天を仰ぐロサイン。だが、直後俯く。

「だが、この世界はどうだ? わたしはこの世界に来てすぐ、つまらないと思ってしまったよ」


 ロサインは一度深呼吸を行い、俺を見てくる。


「この世界は本当に多種多様な人間で溢れかえっている。君のような珍妙な猿もいる。だけど、なぜだ? なぜ、この世界の住民は複数の種が争いもせず共に暮らしているのだ? なぜ、戦争をしない!?


 そうだ。この世界は平和を掴んでいたのだよ。太古では争っていたらしいが、今は完全に人取り合い、共通のコミュニティを形成している。この世界は、人類が望む崇高なる平和を体現した世界!」


 見開き声を荒げるロサイン。

「だが、わたしは望まない! こんなつまらぬ世界に落とされたくはなかった。もっと絶望がひしめく地獄をみたい。せめて、戦争をしていた太古に飛ばしてくれたら良かったものの……」


「……く……狂ってる……」

 このロサイン……明らかに異常者だ……。病気レベルの戦闘狂……。


「……君もわたしの意見には反対かい? 同じ転移者であれば、理解していただけるかと思ったんだがね……。

 いや、君とわたしですら、別世界の人間。違うというわけか……」


「……さすがに理解……できないな……」

 いくらなんでも話がぶっ飛びすぎてる……。


「……というか……、まさか……この騒動を起こしたのって……」


「クククッ、お察しのとおり。この世界に戦争を引き越すためだよ」


 ロサインはゆっくりと俺から離れあの発光体に近づいた。

「わたしは日々の退屈に苛立ち、思いいたった。ならば、自らこの世界を望む地獄にしてやればいいと」


 ロサインは拳をぐっと握り締める。

「わたしはその思いで、まずエリュトロンレオ団に入団した。そして、さっさとトップを殺し、わたしが頂点にたった。

 あとは、団と団をひとまずぶつけてみようと思ったわけだ。その対象がたまたまゲルプイーグル、君たちの団だったというわけだ。ついでに街も攻撃すれば戦争に発展しやすいと思ったわけだ」


 ロサインは再び、俺の下に近づいてくる。

「戦争はいいものだよ。うまくやれば、技術が一気に発展する。金回りがよくなる、稼げる。景気が跳ね上がる!

 そしてわたしは刺激を取り戻す」


 そして、ロサインは再び、横たわる俺の横にたった。

「楽しいものだ」

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