第4話 戦場の裏側

 うずくまるマト。

 それに向かって何かを仕掛けようとする化けグモ。


 とっさの判断で、俺は左手に力を込め立ち向かった。

「この……化けグモめぇっ!!」

 トロルにやったのと同じ攻撃を付き放つ。うずくまるマトの上を擦過した炎が化けグモをいとも簡単に巻き込み、焼き殺した。


 すぐさま、マトに駆け寄る。そして、マトの左足に化けグモが吐いた液体がかかっていることに気がついた。


「マ……マト!? 大丈夫か!? まさか……俺を庇って!?」

 でも、あの攻撃程度であのマトが!? ……まさか……毒!?


「ケイジ……」

 マトが虚ろな目で俺の服を掴みかかる。

「中央は……あらかたあたしが殲滅した……でも、まだ終わってない……」


 どうやら相当な毒がかかっているらしい。この感じだと……神経系か……。

「油断しちゃ……ダメ!」


 俺はマトの言葉に対し、ぐっと目を閉じた。

「……悪い……。あとで謝る」


 俺は頭では思いつつも、油断してしまっていた……どこまでも……戦闘経験が浅い証拠。


 俺はもう一度、気を改め敵陣を見た。


 まだ、さっきのトロルや化けグモ級のやばい動物が数匹いて軍と交戦中。まずは……そいつらを片付けないと。


 俺はとにかく全力で挑み続けた。右から攻めて来る獣を炎で焼き払い、左から飛んでくる虫を雷で落とす。

 向こうで一体の動物を魔法で凍り付けにするセロの姿も見える。


 軍もまた一体ずつ交戦を重ねて行った。だけど、それで完全には押しきれないので、俺たちでトドメを差すといった戦闘。


 俺は右手がダメになっているし、さらに攻撃を受けたりし、確実にダメージは蓄積されていった。だが、それに比例して確かに敵の数も減っていっていた。


「おらぁああ!!」

 セロが放った強烈な蹴りが大きな獣を吹き飛ばす。それが地面にぶち当たると同時、地面がえぐれ、岩が散乱。


 と、その時だった。

 岩の一部が俺のところまで飛んできた。それを確認した俺は旋回行動を取るが、破片の一つが右手にあたってしまった。


「グッ!?」

 それだけなのに、とてつもない激痛が走る。その一瞬が、まぐれもない隙だった。


 ある一体の獣の拳が俺の体に命中。体中の骨が軋み吐血。そのまま、俺の体は敵陣のさらに向こう側へと吹き飛ばされていった。


 態勢を立て直し旋回しようと試みる。だが、体中に走る痛みがそれをすることを阻害する。

「や……やべぇ……」

 体がいうことをいかない。俺の体はそのまま、奥にある森の中へと突っ込んでいった。



 いくつかの木々が俺の体によりなぎ倒される。次々くる衝撃が既にダメージを蓄積した体により響く。最後、地面にぶち当たったときには、痛みのショックにより視界が暗転、ブラックアウトしかける。


 それでも、痛みをこらえながら仰向けに。繰り返し深呼吸、意識をつなぎ止める。息が整い始めると、体を確認。大量出血している感じはまだない。

 命はまだ大丈夫だと判断し、ゆっくりと立ち上がった。


 立ち上がると同時に痛みが走る。それに対しぐっと目を閉じこらえると強引に立ち上がった。


「……どうする……」

 このまま戦場に戻っても、今のままじゃ足でまとい。であるならば、この森を抜けて撤退したいが……、飛ばされた方向から考えるとはこっちは敵陣側。獣がやってくる場所……。


「はっ!?」

 俺はそこで初めて今の自分の状況を理解し、辺りを見渡した。ここは下手したら凶暴な動物の巣窟で、既に囲まれているのではないか。そう思ったのだ。

 だが、わりと静か……。


「……あらかた倒したのかもな……」

 だが、そう思うと、向こうに何か怪しげな光があることに気づいた。紫色で明らかに森の中にある光としては異様。


「……なんだ、あれ?」

 俺は足を引きずりながらゆっくりとその光に近づいていく。そこで俺はこの戦場の謎の一旦を垣間見てしまった。


 光の正体は空中に浮かぶ紫の丸い発光体。……それが一体何なのかは分かりっこないが、おそらく魔法の類によるもの。

 そして、その近くにいる一体の獣。


 謎の発光体の光が一部飛び出し、獣を包み込んでいく。やがてその獣は雄叫びを上げると、戦線の方向へと向かって歩きだした。


「随分と満身創痍のようだね新人くん」


 もう何度目だろうか、この人に背後を取られるのは。振り向くとそこには、例の人猫、ロサインの姿があった。


 まずい、この状態だとまともな戦闘すらできないぞ……。


 もはや構えも取れない俺に対して、ロサインはゆっくりと発光体の方に近づいていった。


「これが一体何なのか、疑問に思っているようだね?」

 発光体に対してさっと手をかざす。そしてそれを撫でるように手を下ろした。


「これは動物を支配する魔法が込められている。そして、人間を恐れず戦闘をさせるようにしているのだよ。

 君が戦っていた動物は皆そうだ」


 ロサインはゆっくりと俺のほうに視線を向ける。

「最初はうまくいかなかったが、次第にうまく動物を操れるようになった。力も限界まで引き出せる魔法になってくれたみたいだ……」


 その説明を聞きながら、頭にあるものが浮かんだ。

「……まさか……魔法石……っ!?」


 ロサインは少し関心したように喉をならした。

「これはお見事。私が盗んだものを嗅ぎつけてくれたようだね。その通りだよ。強い魔法石を利用してこの魔法は完成したのだよ。

 あの道具屋の主人には感謝しておかなければならないようだね」


 そう言うとロサインはゆっくりと手を俺のほうに向けた。

「先にあの世行って、わたしの代わりに礼を伝えておいてくれるかな?」

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