第3話 トロルとの戦闘
二メートル以上あるトロルを前に俺は少し怯んでいた。そいつが放つオーラが明らかに普通ではなかったからだ。
トロルを囲むように隊列を組む小隊。小隊長の指示のもと攻撃が始まるがトロルはたいしたダメージを受けていない。
トロルが振るう大きな拳が小隊をなぎ払い始める。
前に出ていた小隊長が後ろに下がりながら呟く。
「……これ、普通のトロルじゃねえぞ」
普通じゃない? その意味を詳しく聞いてみたいが、戦闘中であるためそうはいかない。
最初は怯んでいたが、おそらく俺がやらないと、誰がやる状態なのは明白だった。
意をけして軍とトロルの間に降り立った。
俺がトロルの前で力を解放、渾身の威嚇を放つ。するとトロルは対抗するように大気を震わせる咆哮を放ってくる。
やはり、怯んで逃走するようなことはないか。もちろん、サーベルゴブリンは生物として人間に対しても好戦的な特徴を持っている。もしトロルがサーベルゴブリンの近縁種ならこれでもおかしくないが……。
「……よし」
俺はぐっと腰を落とし地面を蹴った。
同時に襲って来るトロルの腕。そのスイングを空中で方向転換しつつ避ける。そのままオーバースイングの蹴りをトロルの頬に叩き込んだ。
衝撃をモロに受けたトロルがぐらりと体を揺らす。そのまま、さらにかかと落としをトロルの頭部に落とす。
声を漏らすトロル。そのトロルが俺を両手で潰しにかかってくる。だが、なんなくトロルの頭を蹴り跳躍。トロルの両手が乾いた音を立てて当たるとき、俺は炎魔法を放っていた。
俺の手から弾け出された豪炎がトロルを一瞬にして包み込む。やがて炎が消えていくが、トロルは体のバランスを崩し、手をついた。
「よし、効いてる」
トロルの動きも遅い。一撃自体は重いかもしれないが注意してよけて攻撃をつなげていけばなんとかなりそうだ。
あとは、あいつがどれくらいタフなのかだが……。
次の一手を考えながら空を飛んでいたのだが、その時計り知れない衝撃に見舞われた。それがトロルの攻撃がと気づいたときには、地面をえぐるように叩きつけられる。
「ガァアアッ!?」
地面との摩擦で停止したものの、たった一撃で貰ったダメージは殊のほか大きい。右腕が一本ダメになってしまった。
……なんてやつ……、さっきまでスピードを抑えてやがった……俺を油断させるため? 確実な一撃を与えるため……?
どちらにしても、今の攻防。俺の頭はトロル以下ってことか……。
「くそ……、人間じゃないと思って戦い方が……雑だったか……」
俺の前にまできていたトロルが腕を振り上げる。
「ガァアアアアアアア!!」
俺が跳躍した直後地面をえぐるトロルの拳。その一撃で地面が割れると同時、飛び上がった俺のところにまで風圧が届く。
風圧に耐えつつ、攻撃の機会を伺う。だが、続いてくるトロルの攻撃。それは地面からえぐりとった岩の投擲だった。
「ぐっ!?」
かろうじて空中にて方向転換。果てしない風圧と音を耳元で感じながら、トロルと距離をとり着地。
「ホント、でかい図体のくせにやたらと攻撃の手がすばやい……」
右腕を抑えつつ、トロルを見据える。トロルはでかい足をズンと響かせ歩いてくる。
だが、次の瞬間、トロルの足が地面に埋まった。
「うがっ!?」
そのままトロルは躓くように地面に手を付く。
「今だ! 一斉攻撃!!」
聞こえたのは小隊長の掛け声だった。そこで軍が仕掛けた罠にトロルがかかったということに気づく。
軍の一斉攻撃がトロルを襲う。
俺だって、さすがにこの瞬間を逃すわけにはいかなかった。左手に全身のパワーをブチ込む。
そのままトロルに向かって接近。
「軍、打ち方やめぇ!!」
小隊長の指示が通り、軍の攻撃が止む。その瞬間、俺は溜めに溜めた広大な炎魔法を至近距離にてトロルにぶち込んだ。
炎のなか悲鳴をあげるトロル。その叫び声はしばらく続いたが、炎が沈下していくとともに小さくなり、やがて沈黙。完全に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……やったか……」
俺は倒れたトロルの横に着地し、一息ついた。かなりの力を消費した……。右腕も痛みで動かない。また骨折したか……。
「おいっ、お前、後ろ!?」
ふと、小隊長の叫び声が聞こえた。それは最初誰に向かって放たれた言葉なのかわからなかった。
だが、次の瞬間、背後に気配を察知。
そちらに視線をよこす頃、高さが俺以上もある節足動物……化けグモが接近していた。
俺が反応するより先に化けグモから吐き出される液体。
――これは……まずい――
そう思った瞬間、俺の体が横に突き飛ばされていた。
「ウガァアア!?」
右手が地面にぶち当たり擦れ、更なる痛みが脳を突き刺してくる。そのあまりの痛みに一瞬気が遠くなる。
だが、それだけは避けなければならない。頭強引に打ち付け別の痛みでごまかす。そのまま、顔を引き上げ化けグモのほうを見る。
だが、その化けグモ以上の衝撃がそこにはあった。
「……っ!?」
俺の目の前でうずくまるマトの姿があったのだ。
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