第2話 戦線、援護に入る
道具屋の資料を渡しに来た人がサハクに敬礼をし、帰ろうとする時だった。
その人物と同じような格好、すなわち同じ軍の人がこの部屋のドアを乱暴に開け入ってきたのだ。
「な……何事だ? いくらなんでも失礼ではないか!?」
資料を持ってきた人物が乱暴に入ってきた人に活を入れる。だが、その人物は何度か頭を下げたあと、サハクの前に立った。
「突然の失礼をお許し下さい。緊急事態があって参りました。この町の北のほうから攻め入ってくるもの多数発見。現在、私たちの軍勢が交戦状態に入っております! 是非とも手を貸していただきたいと存じ……」
「まさか、ロサインですか?」
サハクは報告者の言葉を遮り、前に体を出した。だが、報告者は首を横に振る。
「いいえ。ロサインではありません。それどころか、エリュトロンレオのものでもありません」
その報告にサハクが一瞬口を止めた。しばらく首をかしげて、口を開く。
「では、何者ですか?」
「一言で言えば、動物です。ですが、明らかに戦意をこちらに向けて襲って来るのです。単純な好戦度合いで言えば、サーベルゴブリン以上かと」
サーベルゴブリン、俺がこの世界にきて最初に戦った動物。人間である俺に対しても臆することなく戦闘を挑んでくる動物だった。
「……分かりました。ゲルプイーグル団も応援を出しましょう。その感じだと、軍だけでは対処しきれないということなんですよね」
「はい。お願いします」
そうして、その場にいた俺とマト、セロが戦線に向かっていった。
確かに戦線ではそれなりの軍勢が動物と戦線を築き上げていた。しかも、動物に関しても一種の群れというものからは程遠い。
ドラゴンみたいなのがいれば、オオカミやらゴリラっぽいのやら、どでかい虫。種はてんでバラバラだ。
なぜ、こんな奴らが統率を持って軍と戦線を気づいているのだろう。
「ケイジ、呆気にとられていないで。行くよ」
「あぁ……おう」
俺たちはまずその場で指揮を取っているマガンのもとへと降り立った。
「おぉ、着ていただけたか。ありがたい。早速あなた方も戦術に組み込ませていただこう」
そう言ってマガンは広げられた地図に手を伸ばした。
だが、マトはさらっと戦線の状況を確認しただけで、宙に浮かび始めた。
「必要ありません。あの程度なら片っ端からわたしが片付けてきます」
そう言うやいなや、戦線に向かってまっすぐ飛んでいった。
「た……頼もしいことで……」
ポカンとしたままマトを見送るマガン。
まぁ、マトは格が違いすぎるということでいいだろう。
「で、俺たちはどうしましょう?」
セロがマガンと向かい合い、地図に目を通す。
我に返ったらしいマガンは慌てて地図にある各小隊を指さした。セロと俺、それぞれ左右の小隊。
「小隊の援護をお願いします」
俺たちの役割も決まり、戦線に向かうため飛び上がる。
と、その時、戦線の向こう側でどでかい炎の塊が出来上がっていた。それが地面に打ち下ろされ炸裂。激しい閃光と爆風が地面を大きく揺らす。そして動物たちが吹き飛んでいく。
「……もうあれ、あいつ一人でいいんじゃぁ、ないかなぁ」
「……そっすね」
我らのエース、マトは戦場にてあっぱれ無双していた。
まぁ、そうは言いつつも流石に数が数なのでそれぞれ、持ち場に向かって突っ込んでいった。
俺は先に援護対象の小隊を確認。目の前の対象の動物も確認。まずは一発小隊と一番前で交戦しているごつい猿に向かって蹴りをぶち当てた。
俺の足はクリーンヒット。弧すらほとんど描くことなく、遥か先の山に激突。ひとまず一匹処理完了。
「おお! 援軍か!」
俺が登場したことで、小隊が鼓舞を上げる。随分と士気が上がり始めたらしい。
だが、敵となる動物たちが怯む様子は見られなかった。それは俺が力を解放し解き放っても同じ。躊躇なく襲って来る。
どうやら、報告の通りらしい。
小隊の中でもは、前衛中衛後衛に分かれ戦闘を行っている。さすが組織というだけあって、規律が見て取れる。
銃器類の武器を使うもの、魔法を使うもの。統率が取られ、着実に敵の数を減らしているように思える。
だが、幾分数が多い。このままではジリ貧になっていたことだろう。
俺は大きめの魔法を放ちつつ、敵の数を減らすのに貢献していった。
後々に、俺たち以外のゲルプイーグル団の一部も戦線に参加。どんどん敵の動物たちは数を減らしていった。
だが、減っていくと同時に一部の動物が目立ち始めた。一言で言えば只者ではなさそうな雰囲気を放つ獣ども。
そのうちの一匹、慎重にして二メートル以上あるであろう化け物が援護する小隊の前に立ちふさがった。
「ト……トロルだ!」
小隊のだれかが叫ぶ。
トロルと呼ばれたそれは、一見するとゴブリンに近い種族に見える。だが、サーベルゴブリンよりは遥かに大きく、筋肉の量も桁違い。
ゴブリン界のゴリラとでも言うべき姿だった。
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