戦線へ突入する!
第1話 盗まれたもの
再び俺たちはサハクがいる支部の部屋に集まっていた。と言っても一部、ロサインと直接再接触したセロ、マト、そして俺のみ。
それ以外は、軍を含めて今尚警戒網に加わり続けている。
ちなみに軍の一小隊が全滅していたことも確認ずみ。ロサインが落としたということで、間違いないだろう。
「……どうやら……我々は遊ばれているようですね」
サハクは言葉遣いの裏で苛立ちを持ち始めているように見えた。
そのサハクに対して、マトが一歩前に出る。
「ですが、あいつの気配を消す力は本物です、無論、実力も含めて。これほど、何度も町に侵入されては、逃亡をゆるすほどには……」
マトはそう言いながら壁を拳で叩いた。
壁に立てかけられたカレンダーが揺れる。
「無論、あたしの力不足が原因なんですけど」
「そ……そんなことは……」
俺はマトにフォローを入れようとした。だが、マト自信が俺に向かって鋭い視線を見せてきた。
その迫力に、口を噤いでしまう。
「相変わらず、彼の目的も不明瞭なままですしね」
サハクもまた、頭を抱え込み、机に肘をついた。
その時だった。
部屋のドアがノックされる。サハクが許すと一人の人物が入ってくる。軍の制服を着たそのものは、紙を持ってサハクの前まで来た。
「あらたな情報を確認できました。よって、共有いたします」
サハクに向けて敬礼を行い、その紙をサハクに差し出す。
サハクはその紙を受け取ると内容を見渡し始めた。そして、すぐに表情を変える。何度もその資料を見る。
「これは……道具屋の……」
「はい。こちら、一枚目はロサインに侵入されていた道具屋に残されていた品物一覧です。
そして二枚目以降は道具屋が行っていた取引内容の一部です」
「なるほど、これは……いい手がかりになりそうですね」
サハクが資料を見て唸る。
「全ての取引資料を取り寄せられたわけではないので、完全な情報にはなりません。しかし、ひとつ、気になる品がございまして」
軍の人はサハクが持つ資料を指差していた。
「こちらの品です。取引で三つ仕入れていた魔石ですが、強襲後の部屋には残されていませんでした。恐らく、それが盗まれたかと」
サハクは資料をほかの資料と比べつつ見ている。
「……しかも、かなり高額な品ですね。おそらく、かなり高密度で純度が高い魔石なのでしょう。
これは、定期の取引とは別みたいですね」
サハクらの話の中でよくわからん単語が出てきたので、近くにいたセロに体を傾けた。
「セロさん、魔石ってなんです?」
「……はぁ?」
セロは心底、呆れたようにため息をつく。
「俺とケイジで採掘にいったことあったよねぇ? いや、採掘できなかったかなぁ……ボロボロにされてねぇ」
その説明を聞き、あぁと思い出す。
「魔法生物が宿った鉱石とかいう?」
「そう、それだねぇ。団長の話を聞く限り、かなり強い力が秘められた鉱石を扱っていたらしいねぇ」
セロから説明を聞いている中、サハクは資料をポンと叩いてみせた。
「市場に出回る個数もかなり限られた貴重な魔石だった可能性も十分にありますね。これであれば、ロサインは町に侵入して、道具屋を襲ってまで手に入れる価値はあると思います」
本当にいい情報が得られたということらしい。少しイラついていたサハクも、随分と声のトーンを上げていっていた。
「ええ。そうだと我々も思っています。しかし……」
軍の人はサハクとは裏腹に声のトーンを少し下げる。
対して、サハクはその意味を理解したようで、小刻みに首を縦に振る。
「そうですよね。問題は、彼が、この魔石を何に使うのか、ということですよね。肝心の目的は何一つとして分かりません。
魔石など、いくらでも使い道はありますからね」
当然、俺は魔石の使い道なんてなんにも知らない。期待を込めてセロに視線を送ると、ため息をつきつつも答えてくれた。
「本当になんでもだねぇ。本当に凄い魔石なら、俺みたいなやつでもそれを触媒にしたら、マト並みの火炎魔法を放つことだってできるよ。
生活に必要なエネルギーに変換することだって可能だし、エネルギーを取り出して、爆弾とかにもできるだろうねぇ」
俺はセロの説明を聞いてふんふんと頷いてみる。実際の使い方など全くわからんが、この際はどうでもいい。
「その爆弾ってのは怪しいかも知れないっすね。この町を吹っ飛ばすぞ! みたいな……、ってそこまでの威力は出せないか……」
「いいや、十二分に出せるはずですよ」
サハクが俺に視線を向けて話しかけてくる。
「まあ、ロサインに盗まれたであろう魔石の純度と数なら、この町を何回かは壊滅させられるでしょう」
にこやかな笑顔でとんでもないことを言ってくれる。
やったね。俺、何回でも死ねるらしいぜ。
「でも、その線は低いでしょう」
サハクは両手をさらっと振った。
「そもそも、ロサインほどの実力であれば、素の力でこの町を吹っ飛ばせますよ。わざわざ魔石を使う必要ななさそうです」
……左様ですか。
ちなみに、ちらっと俺はマトのほうに視線を向けた。
ということは、このマトもこの町ていどなら、吹っ飛ばせるという話になる。
マトは俺の視線に気付いたらしい。
「その気になれば、世界を地獄に叩き落とせるよ」
彼女からありがたいご宣言を頂いた。
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