第6話 ヒットアンドアウェイ

 そうやって、俺がガッツポーズをしている時だった。


「生きぬことが強さか……なるほど。確かに的を射たセリフだね」


 俺とセロ、弾けるようにその声の主のほうへ顔を向ける。もはや、悩むまでもない……やつである。


「お前……また現れやがったな」

 俺が嫌悪感をはっきりだしロサインを睨む。だが、その時既にセロは俺のとなりにはいなかった。


 代わりに少し離れたロサインのところに。だが、攻撃を食らっていたのはセロのほうでみぞおちを抱え込み、うずくまっていた。


「素晴らしい不意打ちだったよ。だけど、それでもわたしの方が速かったようだ。残念だね、キキキッ」


 地面にうずくまるセロをもう興味をなくしたとでも言うように、横に蹴る。セロが力なく地面を転がる横をロサインは一歩歩みだす。


「新人クン、どうだい? 最近の調子は?」


 俺はあまりに唐突な出来事で動くことすらできなかった。


 しかし、どういうことだ? この町は既に軍によって包囲網が形成されていたはず……。であるならば……こいつはずっと町に潜伏していたということか。


 俺は攻撃も逃走もできず、まるで足の裏が地面に接着されてしまったような感覚に陥ってしまう。


「どうした? 新人クン。元気ないじゃ……うん?」

 ふとロサインの歩む足が止まる。


 ロサインが見下ろすと同時、俺の視線をロサインの足元に向く。そこには、ロサインの足をぐっと掴むセロの姿があった。


「……その手……どけてもらえないかね? 歩くことができないではないか」

「ケイジ……すぐに逃げろ……助けを」


 そこで俺は我に帰った。

 そうだ、ここで二人ともやられたら、バディを組んでいる意味がない。セロと俺がふたりがかりでやっても勝てる相手ではないのだ。

 であるならば、俺にできる選択肢はただ一つ。


「手を離したまえ。でなければその邪魔な腕がなくなることになるぞ?」

「ケイジ……」


 俺は思いっきり地面を蹴り上げた。空中に向けて一気に飛び出す。ここのロサインがいることを周りに知らせるために。


 だが、俺はすぐにその進行を自ら止めていた。

「やあ、久しいな。一秒ぶりか」

 俺の進行方向にロサインが立ちはだかっていたのだ。


「な……なんで?」

 ふと後ろを見ると右手を押さえ苦しむセロの姿。


「そう慌てるな……話はこれからじゃないか」

 そんなセリフをロサインが言い終わるか、それより前か。急にロサインは飛び出した。空を蹴り刹那、俺の頭上でインパクトの音。


 音に続いてロサインが地上に降り立つ。それと同時、俺の横であの人、マトが空中停止した。


「流石に反応いいね」

「……マト!?」


「また不意打ちか……。どうもゲルプイーグルは正々堂々と言う言葉を知らないようだね」

 ロサインは少し乱れた服装とマントの位置を正しながらそういう。


「正々堂々……ね。そう言う割には、君だってこの町中でコソコソしているみたいじゃない?」


 マトが下にいるロサインに向かって言うが、ロサインは大げさに首を傾けてみせた。


「コソコソ? まさか、むしろわたしは堂々とこちらに趣いているつもりだが?」

 ロサインは両手を軽く広げ、すっと浮遊。上昇し始める。


「今日もこの町に少し用事が会って来たのだよ。ついでに新人クンの顔も拝んでおこうかと思ってね」


 マトは俺を後ろに下がらせながら、逆にマトはロサインに近づいていく。

「この町は既に警備網が出来上がっている。入れるはずがない」


「警備網?」

 ロサインはさらに首をかしげたが、しばらくして大きく声を響かせて笑い出す。


「そういえばこの町に入ろうとしたら、随分と虫がこの町にたかっていたね。入るのに邪魔だったので、一部分殺虫しておいたのだが、もしかしてそのことを言っているのかな?」


「……け、警備の軍を殺したのか?」

「大丈夫。わたしは自然に対しては優しいものでね。絶滅しないように心がけておいたよ。ほんの、わたしが通るべき道にいるハエを一掃しただけ」


 次の瞬間、マトの蹴りがロサインに直撃しようとしていた。だが、ロサインは一瞬の間に腕を上げガード。

 空中にて激しい衝撃波が生み出される。


「まともじゃないね、おまえ」

「わたしもそれは知っているよ」


 さらにマトの攻撃が放たれるがロサインは避けつつ反撃。マトはそれを受け流す。そんな行動を空中にて一瞬の間で繰り広げる。


 さらに弾けるように離れる二人。

 マトの右手が水の塊で埋め尽くされる。そのまま発射。強大な水圧の力がロサインを穿つ。


 だが、ロサインもまた、強烈な炎をはじき出す。マトとロサインの間で瞬間的な大爆発が起きていた。


 そして、いつの間にか俺たちの周りは軍によって囲まれていた。恐らくマトの戦闘を感じ取った軍が追ってきていたのだろう。


 だが、マトはそのなかで叫ぶ。

「しまったっ!?」


 マトが空をあちこち飛び回り始める。

 爆発によって発生した煙が消え去ると同時、消えたロサインのシルエット。


「……まさか、逃げたのか!? この状況で!?」


「……あいつ……なんてやつなの? こんな包囲網の中……完全に気配を消して逃げ切った……。いや……むしろ少し暴れて軍の警備がこちらにま詰まったのを見計らって……逃亡した……」

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