第5話 強さとは
町中で俺たちは警備を行っていた。俺と一緒になってくれている人はセロ。二人ひと組で警戒態勢を築いている。
「って言っても……俺とセロさんが組んだところで、ロサインに到底かなうとは思えないんですけど……」
なんて愚痴をする。
「いやぁ……、そんなことを言ったら、そもそもロサインにかなうペアなんてマトとダーカス副団長ぐらいしかないと思うけどねぇ」
「……それはそうですけど」
するとセロは少し大きめにため息をついた。そして、しっかり俺に視線を合わせてくる。
「こういうの、なんで二人組にするかっていうとねぇ、もし敵に出会ったとき、片方が囮になって、もう片方が連絡係として走ったりするためのものなんだよぉ……。勝つためじゃぁない」
セロの説明を聞いてなるほどと納得した。特に相手がロサイン一人だけなら、二人組の方翼くらいなら逃げることができるだろう。
「安心していいよぉ。有事になったら、しっかり君を囮にして応援を呼びに行ってあげるからねぇ」
「はい。分かりました……えぇっ!?」
思わず元気よく返事をしてしまったが、なんかさらっとやな役を押し付けられたりした。
「冗談だよぉ。そういう役は僕に任せればいぃさ。君みたいな貴重な戦力を危険な目に合わせるわけには……もう合ってるかぁ」
うん、合っています。口には言わなかったが首を縦に振っておいた。
「でも、囮役は俺でいいですよ。失礼ですが、たぶんセロさんよりは俺のほうが戦闘を長引かせられるはず……です……、いや……ロサインが相手なら、そう簡単に行きそうではないか」
「まぁ、実際はその状況に応じて適切な対応をとること。それがなにより重要だよぉ。どんな時でも、自分、そして団や町、世界のことを考え、最善策を取ること……。って、君より遥かに弱い僕に言われても説得力ないかなぁ」
「いや、なります! もちろん、なります! 戦いにおいて間違いなくセロさんは先輩なんですから!」
俺のこの言葉は本気だ。
確かに単純な実力ではセロよりも高いのかもしれないが、そもそもの経験値が雲泥の差。
戦い方もままならない俺じゃあ、他人から学ぶことあれど馬鹿にするようなことは一切ない。
「なにより俺はこのままじゃ、ロサインには確実に負ける。あいつに勝てるほど強くなれるとは思えないけど……少しは善戦できるようにならないと」
俺は気合を入れるためガッツポーズをする。だが、セロが少し冷めた口調で俺の話しにツッコミを入れてきた。
「その意気込みは素晴らしいとおもうよぉ。でも、無茶はだめだ。マトに任せることが出来るなら任せればいい。複数人で掛かれるなら掛かればいい。
長い目で見ればその気持ちは大切かも知れないよぉ。でもね、ロサインとの戦闘はすぐそこだよ。何ヶ月、何年も先の話じゃない。そんな早く強くなれはしない。であるならば、自分にできることをしっかりやるべきだよ」
セロの口調がいつもより真面目な雰囲気になってきていた。
「少なくとも、ロサインと戦闘を行うのはできる限り避ける。戦えるものに任せて、自分は後方支援に徹する。それぐらい、しっかり自分の部をわきまえる事だ。
とくに今回は、相手の実力が異常に高いということを十分すぎるほど僕たちは知っているんだから」
セロにそう言われ、気が付けばガッツポーズしていた俺の手はそっと下ろしていた。
セロの言うとおりだ。我を忘れて……いや、単純にもう一度ロサインと戦う気でいたんだ。あれだけの実力差を見せつけられて、なお、自分は戦おうとしていた。
少なくとも、もし今目の前でロサインを前にしたら、俺は間違いなく逃げるという選択肢を真っ先に取ることはなかっただろう。
「……冷静になれました。そうですよね……、だいたい俺、あいつと真正面から向かい合って、その実力差をはっきり分かっていたのに……」
俺が下を向きそんなことをつぶやいていると、セロが俺の頭にポンと手を置いてくれた。
「それを分かってくれたら、十分だぁ。冷静でさえあれば、君は僕なんかより何倍も強い。
生き続けるってことも、ひとつの強さだ」
生き続けること……確かに。弱ければ生き残れない。生き残っているということはそれだけ強いということ。
そう考えるならば、戦闘力だけが強さではないというのもよく分かる。
危機を素早く察し、最善の行動を取ることも……強さというわけか。
「分かりました! 俺、意地でも生き残ります!」
「いいねぇ。その意気だよぉ」
俺は今度こそ、強さのため、ガッツポーズをしてみせた。
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