第4話 団と軍

 ゲルプイーグル団支部の一角にある部屋。そこに立派な白いローブに身を包む人物が複数人現れた。人種もまちまち。


 その中でも一人、ほかとは違うローブを身にまとうものが前に出てくる。俺たち団員が彼の道を作るように開ける。

 そこを堂々と歩む彼はサハクの前に立った。


「わたしは軍の大佐、マガンです」

 ぱっと見た感じ翼が生えてない人鳥種といった印象。緑に近い青の羽毛を持ち、鳥の面影がまだ少し残っている嘴。

 恐らく人竜種だろう。


「これはどうも。わたしはゲルプイーグル団、団長サハクです。よろしく」

 サハクが立ち上がると手をマガンに対して向けた。それをマガンは黙って握り返す。しばらくその握手をすると、お互いすっと話した。


「恐らくそちらの方が事情をよく把握していることでしょうが、話はエリュトロンレオ団のロサインのことです」

「このタイミングなら、それ以外ないでしょうね」


 ずっと気になっていたがいいタイミングだと思い、マトの隣にこそっと寄った。

「なあ、軍と団って違うんだろ? どう違うんだ?」

「うん。軍は政府が運営する戦略団体。対して言うなら団は民営の多目的団体ってところかな。

 所属が一番大きな違い」


 なるほど……、確かにゲルプイーグル団は営業とかいるあたり、民営化されている。たいして軍は国直属と……。


「……よく、その二つが両立されているな」

「仕事の範囲がきっちり分けられているからね。でも、軍の中には団組織を嫌っているものも居るらしいけど」


 まぁ、大体想像はつく。「俺たちの職場を荒らしやがって」みたいな感じなのだろう、いや、違うのか? まぁ、どうでもいい。


 マガンは俺たちの内緒話が気に障ったらしく、一度咳き込むと話を続けてきた。


「ロサイン、やつは間違えても超えてはいけない一線を超えた。殺人だ、それを我々としては容認するわけにはいかないのです」

「……それは、我々の団ではなく、エリュトロンレオ団に出向いて話したほうが有益になったと思いますが?」


 サハクのまったくもってその通りと頷けるセリフに対し、マガンは首を横に振った。


「それが……、実際我々軍のほうでエリュトロンレオの本部に出向いたのですが、もぬけの殻でした。


 その後、捜索を重ねていたのですが、エリュトロンレオの上層部とまるでコンタクトが取れない。

 情けない限りです。


 しかも、つい先ほど行われていた葬儀でも奴が現れたとか……。軍としてこれ以上、彼を容認するわけにはいかないと思い、参った次第です」


 サハクはしばらくマガンをじっと見たあと、口を開いた。

「それは……我々が手を組んで、ロサインを止めるということですか?」


 マガンはサハクの言葉に深く首を縦に振った。


「そうなります。軍が一部の団を贔屓したり、貶めたりするのは避けるべきですが、そうは言っていられない相手です。

 それで、今のところロサインが特に意識しているあなた方、ゲルプイーグル団と手を組むのが得策と判断しました」


「そうですね……。理にかなっています。我々も、彼を倒せるかどうか、やつの目的含めて、いろいろと悩んでいたところです」


「ご理解いただきありがとうございます」


 マガンの礼に対して、サハクはまさに営業スマイルとでも言うべき、とびっきりの笑顔が飛び出した。

 再度ふたりは手を取り合い、固い握手を交わしている。


「で、具体的にはどのような形で手を貸せばよいのでしょう?」


「まず、常時、お互いの情報共有をお願いしたい。といっても、現状では対した情報はないでしょうからこれからですね。


 あとは、警備の範囲振り分けは是非ともお願いしたい。我々軍は町の外に警戒網を敷く予定です。陸空を隙間なく見張ります」


 随分と頼もしい発言なこと。


「ですが、ロサインの居場所は分かっていません。そちらは?」

「……いえ。正直言ってエリュトロンレオの本部か支部にいるのかと思っていましたから。でも、あなた方の話だとそこには居ないということでいいのでしょう。

 であるならば、わたしたちは何も分かりません」


 マガンは想定通りの回答だったようで、特に反応もせずに話を続ける。

「現状、奴は街の外にいるのか、中にいるのかも分からない。街のどこかに潜伏している可能性もあります。


 よって、町の警備をあなた方にお願いしたい。無論、そちらが少数精鋭派の団体であることは承知しています。人数が足りないでしょうから、残りの区画は我々軍が補いましょう」


 マガンの提案にサハクは首を縦に振る。

「それはありがたい。ロサインの驚異を考え、バディ体制で警戒網を張ろうとしていたので、人数不足にはかなり痛手を感じていました。


 ついでですが、ロサインの実力は本物です。情報という意味で忠告です。そちらも、奴との一体一の戦闘は避けたほうがよいでしょう」


 サハクの言葉に対し、マガンはため息をついて深く頷いた。

「それはおっしゃる通りです。というより、お恥ずかしながら、恐らく我々では力不足。もし、ロサインとの戦闘になった場合、是非とも共闘を要請したいのです。お願いしても良いでしょうか?」


「もちろんですとも」

「よかった。我々も、要請を受ければすぐにでも駆けつけましょう」


 こうして、軍とゲルプイーグル団は、互いに助け合うこととなった。

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