第3話 勝機はあるのか

 ゲルプイーグル団の支部に戻ったあと、俺はダーカスに頭を掴まれていた。


「てめえ、あの猫はいったいなんなんだ!? あいつはなにが目的であんな真似してやがるんだ!?」

「お、俺に聞かれても知らないっすよ!!」


 ダーカスは思いっきり舌打ちすると、俺の頭を乱暴に話す。

「あの化け猫が! 今度会ったらあばら骨、全部へし折ってやる」


「副団長じゃ無理ですよ」

 かなり怒りを爆発しているダーカスに口を割ったのはマトだった。


「あぁっ!?」

 今のマトの発言が気に入らなかったらしく、相当鋭い目つきを作り出してマトのほうを見る。

 だが、マトは冷静な顔でそのダーカスと向き合った。


「あのロサインって人、相当強いですよ。たぶん、今のダーカスさん一人で立ち向かっても、あばら骨を折られるのはむしろあなたの方だと。

 果たして何秒後に折られるか」


 マトのそのセリフは、煽りではない。それはすぐに分かった。あまりに真剣な眼差しでそう言っているのだ。


「ではマトさん。はっきりと聞きますけど、あなたは勝てそうですか?」

 まぁ、誰もが聞きたかったことだろう。それを代表してサハクが口にしてくれただけのこと。


 対してマトは数秒目を閉じ、沈黙した。腕を組み、立ったまま壁にもたれかかる。

 やがて、そっと目を開いた。


「正直言って分からないです」

 そのマトの言葉に俺はブワッと全身から冷や汗を吹き出した。あのロース戦で圧倒的力を見せたマト。ゲルプイーグル団のエースがそう言った。


「でも、勘違いしないでください。あくまでも、分からないのは、相手の手の内が分かっていないからです。

 さっきのあれでは、彼、全く本気を出していなかったですし、その気になればどこまでの力を発するのか想像もつかないんです」


 もたれかかっていた体を起こすマト。

「まぁ、想像つかない範囲を加味していいなら……勝てるだろうと、思ってはいるんですけどね……」


 ……勝てる……いや、この勝てるはなんの確証もない発言なのだろうけど……いや、マトのレベルになれば直感ってものがあるのだろうか……。


「うちの団では君は間違いなくエースです。相手の力量をはかる力も確かでしょう。そんな君がいうのだから強敵なのは確かですね」

 サハクはそう言いながら、俺のほうに視線を向けてきた。


「ちなみに、唯一直接対峙して生きている君はどう見ますか?」

「えっ!? 俺?」

「ええ。あのロサインとマトさん、どちらが優勢か」


 俺は今一度、最初ロサインと出会い戦闘したことを思い出す。だが、相手はまともに取り合ってくれなかった。それに、相手の気まぐれがなかったら、今頃、俺だって墓の中で入ってた事実もある。


「すみません。俺に推し量れるレベルをはるかに超えているので……何とも言えません」

「……でしょうね」

 サハクは俺の答えなど放っから知っていたように流した。


「まぁ、本当に気がかりなことといえば……覚悟の差でしょうか」

 マトがゆっくりとサハクに近づき始めた。

「大雑把に見てあたしとロサインの実力が互角だったとしましょう。であるならば、あたしは限りなく不利でしょうね」


 サハクは首をかしげる。だが、隣にいるダーカスはマトの言いたいことがわかったらしく、首を縦に振っていた。


「不利とは?」

「ロサイン、一度周囲にとてつもない殺気を放ちましたよね。あれと実際に犯した殺人を見る限り、ロサインは人を殺すことに躊躇はまるでないでしょう。


 対人戦において、相手を殺すという行為に対して何も感じない奴はこれでもかってほどに有利です。どちらが攻撃の威力を出せるかは明白ですよね?

 相手を殺して勝利するのと、相手を行動不能にして勝利するのでは難しいのは遥かに後者、というのもあります」


 まぁ、確かにやつは人を殺すことに躊躇などまるでしていないだろうな……。躊躇どころか、何か感じているのかどうかも怪しい。


 少なくとも、俺から見たあいつは冷徹、とにかく非道。無論、直接対峙したことによる恐怖が誇張しているだけかもしれないが、この誇張が無駄であることは……恐らくないだろう。


「とにかく、ロサインは「また会おう」そう言っていました。何が目的かは測りしれませんが、奴が再びこの町に……そして我々の前にくる可能性は十分にあります。

 警戒は決して怠るべきではないでしょう」


 サハクは椅子からスクッと立ち上がる。

「非戦闘員の営業は、必ず戦闘員と共に行動すること。そして、戦闘員は必ず二人組以上で行動すること。

 なにより、ロサインとであっても、勝手に戦闘を挑まないこと。これは……全員が徹底するようにしてください」


 そう、サハクが指示したちょうど後だった。

 部屋に入って敬礼するものが一人。


「団長。お客様がお見えになりました! 軍の方です」

「すぐに通してください」


 軍……!? そうだ、入団テストのとき、闘技場の前でドラゴンを従えていたひとが軍だとか言っていた。

 団とは違う、別の組織……。


 軍が……動き出した……?

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