やべえ敵が現れた
第1話 葬式に参列するもの
俺は白のカーネーションを手に持ち、墓の前に立っていた。それを、既にたくさんの白い花で埋め尽くされた所へそっと置く。
手を合わせ、深く黙祷。
どうか、安らかにお眠りください。
俺は心の底からそう思い、黙祷を終えると、次の人へ手番を渡した。
今日は、ゲルプイーグル団で殉職された方の葬式に参加していた。それは、俺が発見したあの二人。猫男に無惨に殺されたあの二人。
今、思い出すだけでもゾッとする。
「ケイジ……大丈夫?」
「……まぁ、はい」
マトにふと肩を持たれた。どうやら、感情が顔に出てしまっていたらしい。
別に故人と面識はない。赤の他人と言えば赤の他人だ。だが、やはりあの殺された姿を見たら、殺人犯を知っていてい……自分そいつと会って戦ったのに……。
あと一歩早かったら……むろん、俺の含めて殺されるのがオチだったかもしれないけど……。
なんてことを次から次へと考えてしまい、……苦しくなる。
参加者全員の献花が終わり、神父らしき人物からの言葉。そして遺族からの挨拶とおもに、葬式は一段落。
関係者として参列した人たちはやはりゲルプイーグル団のものが多く、何とも思い空気が流れていた。
「ケイジ、てめえ。本当に犯人の特徴、語れねえのか?」
喪服姿のダーカスがいつもより若干穏やか、だが明らかに怒りがこもったようにそんな言葉をかけてくる。
だが、俺はその問いに対しては首を横に振ることしかできない。
「すみません。猫というか、マングースみたいな顔だとしか……」
「人猫種は全員そうだろうが。もっと個人的な特徴を言えよ」
「……すみません」
俺はこの世界に来て人猫を何人も見てきたわけじゃない。それどころか、会話したのはあの野郎が初めてだ。
ゆえに、その人物の特徴と言われても答えられない。データベースが少なすぎて、特徴がなんかのか、見極められない。
「でも……、ケイジだって、殺されかけたんですよ。そんなパニックの状態じゃ」
マトが俺にフォローを入れてくれる。それはとてもありがたい。でも、同時に自分の情けなさも浮き彫りになるようで……。
俺はダーカス、セロ、サハク、そしてマトに囲まれながら、無力さを痛感していた。
「もう少し、特徴っつう特徴、語れねえか? 身長、体型。そんなんでいいんだ」
「あ……っ、身長ならたぶん、百センチちょっと……体型は……どうなんでしょう……平均的な人猫種も分からないので……」
俺の言葉にダーカスはため息を吐くが、サハクは首を縦に軽く振った。
「ふむ……人猫としては割と背が高いほうですね。その戦闘力も含めたら、割と良いガタイをしているのかもしれませんね」
「もっと、顔の特徴はねえのか? 真正面からあってんだろ?」
「……それは……」
「その顔って、わたしに似ていたりしないかね?」
俺たちにだけ聞こえるような小さな声が聞こえてきた。その言葉に反射してマト、ダーカス、セロ、サハク、そして俺が振り向く。
その姿をみて首をかしげる……俺を除いて。
「……あ……まさか……」
振り向いたその先にいたのは一人の人猫。数メートルほど離れたその先にいるのは、身長は百センチ、喪服に身を包む人物。
そいつはとたんに不敵な笑みを浮かべる。
「いや、わたしと同じ顔だろう。なぜか? わたしが本人だからだ」
その瞬間、周りにいる仲間の息を呑む音がはっきりと聞こえた。
まっさきに飛び出したのはダーカス。拳を振りかざす。
「てめえ、ざけんじゃねえぞ!」
「やぁ、新人クン。また、会えたね。わたしも嬉しいよ」
「「「なっ!?」」」
全員が一瞬にして固まった。
ダーカスは確かに数メートル離れた男に向かって一撃を放ったはずだ。だが、そこに男は既におらず、今、俺の目の前にいる……。
「……ねえ。ケイジから離れてくれないかな?」
一人、マトが反応できていたらしい。エネルギーが蓄えられたマトの右手が猫野郎を捉えている。
だが、肝心の猫は何食わぬ顔。世間話でもするように首をマトに向ける。
「新人クンの名前、ケイジっていうのかね? わざわざ教えてくれてどうもありがとう、お嬢さん」
「舐めないでくれる?」
「君は実に美味しそうだ。是非とも舐めたい」
「……変態か」
この異様な空気は周りにまで伝染しはじめたらしい。葬式に参列していた人たちがざわつき、俺たちのほうへと視線を送りはじめる。
「い……いつから……?」
目の前にいる猫男に対して俺は必死に言葉を絞り出す。
「最後の献花が始まる前から。黙ってお見送りしておいたよ。死んだ彼らをね」
……こいつ……!
「あと、お嬢さん。そろそろその腕、下ろしてもらえないかね? まさか、君も棺桶に入りたいわけじゃなかろう? わたしも葬式の連続は疲れるよ」
「黙れ!」
マトがついに攻撃を放った。
が、それに対する猫男。それを素早く受け流す。続くマトの一撃を避けつつ、逆に猫男が攻撃を仕掛ける。
マトと猫男の一撃が重なり、インパクトしたところ。弾けるようにふたりはその場から間合いを取りあった。
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