第6話 事件発生、突入する!
町の見回りは続いていた。
この前倒したエリュトロンレオの雑魚たちはそのまま厳重注意のもと、釈放された。実質彼らは特に迷惑をかけるようなことはしていないゆえ、咎めることができなかったということらしい。
ただ、一応現場の状況はサハクとダーカスも、周りにいたギャラリーやカウンターのお姉さんより聞いて知っている。必要以上に彼らが攻撃的だった事実もまたあり、そこには疑問が残っている。
ちなみに俺がこうして町を見回っている中でも赤いマント、すなわちエリュトロンレオの団員がちらほらいるのを見かけていた。
それ以外の色の団員もいるのだが、エリュトロンレオよりはさらにずっと少ない感じか。
そして自分のマントもついでに見てみた。黄色のマント。それを身につけているだけで、どうやら栄光の証みたいな感じになるらしい。それは前にいった依頼所の連中の反応から明らかだった。
「おい、誰か! 誰か!」
ふと、少し離れたところからそんな声が聞こえてきた。随分と緊迫した状況らしい慌てふためいた声。
と思えば、その声の主は俺のマントを掴みかかっていた。
「あんた、ゲルプイーグルの人だな! 悪い! すぐ来てくれ!!」
そして有無いうこともないまま、俺は連れて行かれた。
連れて行かれたのは……道具屋?
男が出す緊迫した雰囲気とは裏腹に何とも言えない静けさ。
「ここがどうしたんです?」
「悲鳴が聞こえたんだよ、いきなりな! そんで最初に見つけられたゲルプイーグル団員二人に声をかけて、すぐ乗り込んでくれたんだがそれっきり。訳分かんねえんだよ!!」
……割とガチでやばい状況なのか……? いや、悩むよりまず突入してみるか……。いや、ここはベテランを連れてきたほうが……。
「お願いします!!」
俺を連れてきた男が深々と頭を下げる。さらに周りにいた野次馬も俺のほうに期待の視線を寄せているような気がする……。
「……行ってみるか……」
たぶん、新人としては最低の行動だと思ったが。
静かに道具屋の中へと足を踏み入れた。奥のドアも空いているが、売り場からだと、奥まで見ることができない。よって、ゆっくりと足を奥へ続く廊下に踏み入れていく。
廊下に足を踏み入れてスグ感じたのは強烈な匂い。鼻を思わずつまんでしまうほど。……なんなんだ、この匂いは……普段嗅ぐような匂いじゃない……。
そして一番奥の部屋にまでたどり着いた。その頃には匂いがかなりきつくなっていた。
部屋の右側にまず視線が向いく。そこにいたのは二人の人間。そいつは黄色のマントをしていた。おそらく先に突入したゲルプイーグルの団員。だが……そいつはらは……、ピクリとも動かない。
ゆっくりと彼らの方に近づいてみる。見たことない顔だ。おそらく、この町を管轄している本来の団員なのだろう。
そして、この匂いの正体は彼らから出ている血の匂いだと気づいた。血が壁一面に飛び散った形跡があり、床には血の池ができている。
「こいつら……死んでるのか?」
「あぁ、既に死んでいる」
ッ!?
突如後ろから聞こえた声に対し、背筋が凍るような思いをしながら振り返った。そのまま弾けるように戦闘態勢を取る。
そこにはひとりの人間。身長は百センチをちょっと超える程度か……。俺よりもずっと小さい。だが、その人物からは大人びた……いや、事実大人なのだろう。そしてなにより、冷徹な目。
ミーアキャットに近い容姿といえば、可愛らしく感じるのかもしれないが、明らかに、こいつの雰囲気を可愛いと形容できない。
人猫種だ。そして、赤いマント、エリュトロンレオ……。
「お前……いつから……」
「前から。君がこの部屋に入ってくるより、ずっと前からね」
その答えが本当なら俺はこいつの気配をまるで感じ取れていなかったことになる。でも、確かに俺は……こいつが部屋に入ってきた気配も得ていない。
どちらにしても、俺はこいつの気配を感じ取れていない。
「ッ!?」
そして、この目の前の猫男の背後にもまた、倒れている人物が一人。首をへし折られ、沈黙している。この道具屋の店主か……。
「……こ……これは……」
俺が震えを抑えきれない声を漏らすなか、男は軽く笑いをこぼす。そして言う。
「君のお察しのとおり、ここにいる……いや、いた三人はわたしが殺した」
そのセリフを聞いた瞬間、敵であると確信。恐れを押し殺し、攻撃をかました。恐れて躊躇すれば、間違いなく俺も殺される、そう思っての一撃。
「おや、攻撃をしてきたのかな?」
俺の拳は男の頬にヒットしていた。だが、男は顔を何一つ動かすことなくそんなセリフをしゃくしゃくと放つ。
だが、最初はこっちも全然本気じゃない。この攻撃の間に奥で溜め込んでいたエネルギーを爆発。直後発生する熱と風圧が部屋の中にある家具を揺らす。
さらに俺は間髪入れず、低い背丈の男に向かって打ち下ろすかかと落としを放っていた。
が、男。右手で軽くブロック。
「今度はなかなかの一撃だね」
「ぐっ!?」
男の右手を踏み台にして跳躍。素早く地面に足を付け今度は拳の一撃を放つ。だが、男は俺の拳を無表情で流すと掌底打ちを繰り出してきた。
俺の胸元に敵の掌底がめり込む。たまらず俺の体は吹き飛ばされ壁に激突していた。
な……なんだ、こいつ!?
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