第5話 俺最強!! あれ?

 頭のネジが五六本ほどぶっ飛んだ彼らにため息をつきかけたが、ぐっとこらえる。


「あの……俺、なにかしました?」

「ああ、した。ゲルプイーグル団に入った」


 ……ダメだ……こりゃ。


「この町は何かあればゲルプイーグルだ。少しは俺たちエリュトロンレオにも分けてもらえないもんかね?」

「あぁ……それは……営業通してもらえます?」

 うちの営業担当がどこのどなたか知らないが。


 どこの骨とも分からない奴を、どこのどなたか知らない営業担当に紹介などできるのかどうかも知らない。


「あんま舐めた口聞かないほうがいいぞ? いざとなら力づくでねじ伏せて、力を誇示してやってもいいんだ。

 力を持つものが……信頼を得るんだよ」


 そう言って人魚種のほうが拳を振り上げる仕草を見せる。

 が……。


「なにが、エリュトロンレオだ! ゲルプイーグル団のほうがよっぽど信頼できるんだよ!」

「サハクさんとの団を置いて、他にはないぜ!」

「そういう横暴なところ、いろいろ噂に聞いてるぜ」

「ああ、悪い噂だ! お前らはこの町からでていけ!!」

「そうだそうだ!!」


 …………。

「どうやら……ギャラリーはそう思ってないらしいですね。どうやっても、幾分、うちのほうが信頼をえているらしい」

「てめえ……」


 ついに怒りが頂点に立ったらしい。二人がこちらに向かって思いっきりメンチ切ってくる。なんとも浅はかで、沸点がおかしい人たちだ。


「あの、すみません!」

 そんな中、カウンターのお姉さんが力強い声で話かけてくる。

「ここで争いごとは勘弁してもらえます? 喧嘩なら外で……」


「やれー! ゲルプイーグルの少年! やっちまえ!」

「格の違いを見せつけてやれ!!」


「…………、またもや……ギャラリーはそう思ってないらしいですね」

「いや、そういう問題じゃないです。本当に困りますから!」


 カウンターのお姉さんはそのまま堂々と俺とエリュトロンレオの二人の間に割って入ってきた。それに対して、あの頭いかれた二人も手を止める。


 この肝の座り方。尋常じゃないな。まあ、こういった荒くれ共を相手に商売しているんだから、それぐらい当然なのか……。


 でも……。

「大丈夫ですよ、お姉さん。争うことにはなりませんよ」

 俺はそっとお姉さんの肩に手置くと、横にどけた。

「というより、争いにもなりはしない。すぐに決着つきますよ」


 そう言って俺は前に出る。そして、心配そうにさっきまでのやり取りを眺めていたさっきの少年に視線を送った。

「だって、あのふたりは間違いなく雑魚だもん。少なくともマトやセロに比べたら……、文字通りカス……。たいした奴らじゃない」


 俺はぐっと右手拳を握り締めた。そっと奥の方で力を貯めていく。

 対して、エリュトロンレオの人たちは俺の思惑通りプッチン来てくれていた。


「「なめんじゃねえ!!」」

 奴らの攻撃が来たのを確認し、俺は左手にずっと持っていたみかんを上に向かって放り投げた。


 そして一人目、人魚種の奴の攻撃を避け、腹に一撃。さらに足、もとい人魚種特有の肺魚みたいな尾ビレを払う。そのまま、手を床に付け下半身を起こすと蹴りの一撃をその人魚種に与えた。


 人魚種が床に仰臥。続いてくる人竜種の一撃に対し、腕を使って跳躍し回避。さらにこの建物の壁と屋根を使い三角飛び。

 人竜種の背中に膝蹴りをお見舞いしてやった。


 人竜種も仰臥。顔を床に叩きつけられ、沈黙。

 そして俺は倒れる二人を見下ろしつつ、そっと立ち上がった。


「ね? すぐに終わったでしょう?」

 そう言いながら、右手の平を上に向ける。そして落ちてくるのは、戦闘前、上に投げたみかん。それをカウンターのお姉さんの手にポンと置いた。

「このみかんは少ないですが、迷惑料として受け取っておいてください」


 ふっ、決まった。狂おしいほどに決まったぜ。


「あっ!? てめえ、なんでこんなところに居やがる?」


 ……なんかよく聞く声が後ろから聞こえてきた……。しかも同時に俺の頭がガシッと掴まれる。首ごと回され、俺はばっちり怖いクマさんと顔を合わせることになる。

 隣にはサハクまで。


 周りの人たちは有名人たちの登場にざわついていたが、残念。俺は別の意味で心がざわついている。

 

「……えっ……と……みw」

「見回りとか言うんじゃねえだろうな?」

「言いませんよ」


 全身に冷や汗ビッショリっす。


「あの……、なんでこちらに?」

「俺はサハクの付き添いだ」

「はい。なにかわたちたちにちょうどいい依頼が来ていないか見に来たんですよ」


 あぁ、なるほど。団もこういうところから依頼はとってくるわけか。


「で……、てめえは仕事をサボった挙句、ここで新人の癖に雑魚殴ってイキってた訳か? 格好つけてたわけか? 調子こいてたわけか?」

「……えっ……と、それはちょっと……語弊が……」


 正直言って語弊はない。

 ……それじゃあ、ダメじゃん!?


 なんて心でツッコミをしている頃、俺の首はダーカスの手によってスイングの真っ最中。

「てめえはさっさと見回りしてこいや!!」

「あべしっ!!」


 建物をから投げ出され地面に激突した俺は、もはやなんも言えなかった。


「あっ、このみかん、うまそうだな。も~らい」

「おい!!」

 最後までツッコミはできたからよしとしておこう。

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