第4話 見回り散歩
ミッションといっても具体的には見回りといった感じのものだった。そして、マトみたいな優秀な人物まで町でひたすら見回りというのは実に勿体無いと、団長サハクは言っていた。
んで、まだ入団して日が浅い俺はほとんどの任務が見回りとなったが、それ以外の人たちは交代制。別のミッションと並行して遊ばせないようにしていた。
でも、俺としては見回りといっても具体的に何をすればいいのか、イマイチ分かっておらず、一人町をブラブラしていた。
しばらく街中を歩いていると、商店街らしき場所にたどり着く。そこは町の中でもさらに一際活気にあふれており、ガヤガヤと文字通り様々な人種が行き交っていた。
服や小物といったものから、いろいろな食べ物、店の種類は実に豊富。
「そういや……この世界に来て、団で出されるメシと病院食以外、口にしてねえよな……」
そう呟きながらポケットを漁る。一応数ヶ月間働いた(ほぼほぼ休養だったが)、少しだけお金は手に入っていた。
少しあたりの店を見渡す。食べ物だけでもいろいろある。だが……あんまり妙なものは食べる気がしない。できる限り、見慣れたものを食べてみたいな……。
そういや、動物は結構違うけど、植物はそこまで元の世界と違いなさそうだったよな……。ってことは、果物あたりなら……。
「おっ、それってリンゴ?」
人魚種のおじさんがやっている店に並んでいる赤い物体を指差してみる。
「おう、もちろんリンゴだ。お安くするよ」
「じゃあ、一個ください……ええと、これで」
「あいよ」
俺がリンゴひとつ手に取り、金を払うと、おじさんは随分と陽気に話しかけてきた。
「あんた、サハクさんとこの団員だな?」
「え? あぁ……はい」
自分の黄色のマントに一度視線を送り、頷く。
「そうか。いつも頼りにしてるよ。あんたもよろしくな」
「あ……はい!」
気が付けばみかんもプラスでサービスしてくれていた。片手でリンゴを限りつつ、みかんを左手で持ちながら先を歩く。
にしても、本当にサハクって名前が通ってるんだな……。いや、別に疑っていたわけではないが……信頼も勝ち取れているらしい。
そんでもって、リンゴもかじり終える頃、なんか団の支部とはまた違う大きく目立った建物が見えてきた。
しかも、その建物から体が何人もの人が行き来している。その人たちからは結構な力を感じる……少なくとも町で商売したり、買い物していた人たちとは気配の種類から違う。
「……なんだ?」
気になって中を覗いてみると、そんな強そうな奴らがゴロゴロと建物の中にいた。この中はまた、あの商店街とは全く違う雰囲気で活気があるように見える。
せっかくだし、ちょっと見てみようと建物に入る。すると急にその周りの人たちの視線が俺のほうに向けられた。
気のせいかと思い、奥にあるカウンターまでとりあえず行ってみるが、みんなの視線が俺を追っている。
それで、ついに横にいる人から声をかけられた。
「あの……ゲルプイーグル団の人ですよね? そのマント!」
その人は俺と同等か、それ以上に若い人。随分と目を輝かせている。
「はい、そうですけど……」
そう俺が肯定すると同時、あたりがざわつき始める。
「やっぱゲルプイーグル団」
「『団入り』か……、やっぱ強いんだろうな」
「あんなガキが? 本当に強いのか?」
「だったら、お前試したらどうだよ?」
「……それは……お前がやれよ」
「なんでだよっ!?」
なんてセリフがあちこちから聞こえてくる。
「『団入り』ってだけでもすごいのに。あの少数精鋭のゲルプイーグル団ですよね! いやぁ、憧れるなぁ」
この少年、随分と目をキラキラさせている……、いや、俺も少年だけど。
「ってか、その『団入り』ってなんです?」
「……はい? やだなあ、団に所属している人たちのことですよ!!」
……なるほど。どうやら、そもそもエリュトロンレオなりゲルプイーグルなり、団に所属しているというだけでステータスになるほどらしい。
実力が備わってないと、入れないってことなのか……。
ってことは……。
俺はカウンターにまで足を進める。そこにはいくらかの依頼書が貼られたりしていた。団とかに所属しないフリーの人や、グループはここから依頼を受け取っているらしい。
「おい、なんでゲルプイーグルの奴がこんなところにいる?」
「……ん?」
不意に声をかけられ横を向く。そこにはテーブルまたいで二人、椅子に腰掛けふんぞり返っている人たちが。
赤いマントに獅子のマーク……エリュトロンレオ……。
「あんたらは、こんなところわざわざ来なくても、依頼なら勝手にやってくるだろう。この町の管轄なんだからよ」
「あ~……えっと……、依頼を貰いを貰いに来たわけじゃ、ないんで……。見回りの仕事をやってるんすよ」
一応、ありのままの事実を答えたのだが、そのエリュトロンレオの人たちは立ち上がると、こっちまでやってきた。
「おい、なめてんじゃねえぞ?」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ」
……えぇぇ……、会話できないじゃん、この人たち!? 本当にこの人たちも人間なの?
そう思いながら、人魚種と人竜種の二人をかわいそうな目で見るしかできなかった。
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