別の街に行こう

第1話 生還

 ……あれ……どうしてたっけ……。

 俺は状況がよく分からず、とりあえずまぶたをそっと上げてみた。その目に入ってくるのは光……太陽か……。


 窓際……か。そよ風が窓から吹き込むんでいるのが肌で感じられた。


「……起きた?」

「……うん?」


 耳に入ってきた声に反応し目をはっきり開ける。目の前には……マト。


「あ……っ、おはよう、マト」

「おはようって……」


 俺は自分がベッドで横になっていることに気づき、体を起こそうとした。だが、上半身を起こすより先に痛みが体中に突き刺さる。


「ぐっ!?」


 慌てて俺の背中に手を当ててくるマト。

「まだ痛いでしょう? 三日間寝込んでいたんだから」


 そのまま、マトにされるがままベッドに戻る。

「……そっか、ボロボロにやられたもんな……」

「うん、速攻で病院直行だったんだから」


 そっか……病院か……本当にいきなりお世話になってしまったか……。まあ、この世界にも病院があったのは幸いだとしておこう。


「……ここは?」

「病院のなか」


 そっか、入院中でしたか。


「……あれ? セロさんは?」

「隣にいるよ」

 マトが後ろを指差す。俺は首だけを横に向けた。


 そこには同じくベッドに横たわるセロ。静かに眠っている。そして……顔の部分に白い布が被され……ダーカスがすぐ近くで合掌……。


「……え”っ……死んだ……?」


 あまりの状況に顔が俺の顔が真っ青になる……より先に、ダーカスがヒョイっとセロの顔に掛かる白い布を持ち上げた。


「「うそでーす」」

 おい、てめえら!!


 セロとダーカスが同時に顔をこちらに向けて一言。マジでぶっ飛ばしたい笑顔。


「ったくよ、てめえ。さっさと目ぇ覚ませよ。こちとら、このジョークするために、ずっとこの態勢で待っていたんだからな! 感謝しろや!」

「マジでっ!? しかも、なぜ感謝!?」


 ブラックジョークにも程があるわ!!


 と言っても、セロも重症であることには変わりないらしい。ベッドから起き上がれる状態ではないとのこと。


 ダーカスはため息をつきながら、椅子を俺のほうへ近づけ、座り直してきた。


「まぁ、今回のはあれだ……初ミッションとしては……」

 ダーカスが横になる俺の肩に手を置く。

「難易度がエグ過ぎたな!」

「軽いっ!」


 なんでグッドサインなんだよっ!?


「マトから聞いたが、あれはおそらく、エリュトロンレオでもかなりの実力者だったらしいな。たぶん、幹部レベルだ。

 はっはっはっ、よく生きて帰れたな、てめえ!!」

「めっちゃ他人事……」

「他人だろうが!!」

「他人ですけどっ!?」


 けが人の肩をバンバン叩くダーカス。その度に洒落にならないレベルで痛みが走っているんですけど!!


 やっと、ダーカスは俺の肩から手を離す。


「でも、期待の新人くん。今回の戦いだけで、随分と成長したみたいだな。俺が見込んだだけのことはある」

「……分かるんです?」

「あぁ、無論だ。多分、てめえは実践で成長するタイプだな」


 本当、今完全にミイラ状態のはずだけど、これを見るだけで本当に変わったかどうか、分かるものなのだろうか……。


「よし、さっさと怪我なおせよ! すぐに次のミッションだ!!」

「……え”っ!?」


「セロ、てめえもだぞ」

「はっはっ、……え”っ!?」


 ***


 で、数ヵ月後。


 俺は空にいた。いや、マジでマジで!!


 詳しく言えば、地面から一メートルほど上で浮かび上がっていた。


「うん、上出来! いい感じ」

 マトが俺に向かって拍手をくれる。そんななか、俺はゆっくりと地面に着地した。


「いいねいいね。飲み込みが早いよ」

「……うん。それは……いいんだけどさ……嬉しんだけどさ……」


 俺は今、マトから空飛ぶ方法の伝授をしてもらっていた。


 だって、あれだぜ。この世界に来てからいろんなやつがポンポン空飛んでたぜ、今考えたら。俺、そんな奴ら相手に地面ピョンピョン跳んでたんだぜ、よく頑張ったぜ今まで。


 でもさ……その伝授もいいんだけどさ……。


「まだ、体いてぇんだけど?」


 微妙に残る節々の痛み。別にどうってことないのかもしれないけど、そういう問題ではないような気もするんだが。


「まぁ、大丈夫って言われたしね」


「大丈夫って言ったのダーカス副団長だよねっ!? 医者じゃないよね!? むしろ、医者は安静を勧めてなかったか!? それは副団長さんが脅して強引に問題ない、みたいな感じになってなかったか!?


 これ、ダメだよ!? ブラックだよ!? ブラック企業だよ!? ブラック団だよ!? コーヒーをはるかにブラックだよ!?

 今の日本でやったら、即刻訴えられるぜ。逮捕できちゃうぜ!?」


「おう、てめえ。身分よくサボってるみてぇだな」

「よっしゃ!! 張り切って練習続けよう!! ファイト、オー!!」


 右腕をグルングルン回して、やる気を(いつの間にか後ろに立っていたダーカスへ)アピール。


 が、頭鷲掴みにされた。


「あれぇ!? サボってませんよぉ!?」

「張り切ってるとこ悪いが、明日出かけるぞ。てめえもついてこいよ」

「……はい」


「あっ、あと、サボったらまた骨折れるぞ」

「……はい」


「骨折れても明日は連れてくぞ」

「……うぃす」

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