第6話 絶望的

 爆発した風圧で俺の体は軽く吹き飛ぶ。その勢いを木の枝で殺しつつ地面に着地。

 俺の上からは爆発から生まれた煙が立ち込め天の一角を埋めている。そして、俺の横にセロも着地してきた。


「見事……ケイジ」


 そういうセロは既に満身創痍。右腕をやってしまったらしく左手で支えながらも、力なくだれている。体もとうぜん、ボロボロになっていた。


「まぁ……おかげさまで」

 対する俺だってボロボロであることには何一つ変わり無いか。少し動こうとするだけで、体中が痛い……俺だってどっかの骨にヒビが入っているかも。


「ハハッ……」

「ヘヘッ」


 適当で笑みにもならない表情で笑い合うとお互い一気に脱力。重力に任せるまま、へなへなと地面に座り込んだ。


 刹那。

 なにかが高速で走る音。セロの頭上を通り過ぎると、忘れた頃に後ろで爆発。土埃や石の破片を乗せた爆風が背に届く。


「「……えっ!?」」


 数手遅れて反応する俺とセロ。


「ちっ、外したか……。運がいい鳥だ」


 煙の向こう側から聞こえてくる声。

 俺、セロともに、声もでない。だが、その声の主ならすぐにわかる。分かりたくなくてもすぐわかる。


 やがて煙が晴れてくると悪魔のようなシルエットが見えてくる。人間型に翼が生えたシルエット。

 そして、やがて見えてくるキツネ顔。


「今のはかなり驚いた……いや……痛かったな」

 煙が巻かれていく中、不敵な笑みを掲げるロースの姿がそこにあった。


 もう、何も言えない。何を言ったところで俺の頭によぎるのは絶望であることに変わりはない。


「そ……そうか、俺、へこたれたから当たらなかった……わけだ……」

 セロが立ったままだと、打ち抜かれていたのであろう自分の頭を抑えている。


「命拾い……したねぇ」

 そんなことを言っているが、状況に変わりはないことを、セロだって察しているはずだ。

 いや……それとも……。


「セロ……他に奴を倒す策は?」

「……あると思う?」


 セロの「終わった」とでも言いたげな諦めの笑みが見えた瞬間、俺の腹に強烈な一撃が撃ち落とされた。


「「ガァッ!?」」

 ロースの全体重が乗っかる両足が俺とセロの腹に勢いよく来る。


「そら、どうした? もう終わりか? さっきの威勢はどうした?」

「「グゥァアッ!?」

 さらに追撃を重ねてくるロース。そのまま、俺たちの腹を台にしてロースは蹴り上がり、バク転したあと地面に着地。


「どうやら、さっきの一撃が全力だったらしいな」


 必至に立ち上がろうとするも、腹に激痛が走り、吐血。力を入れようとすれば激痛でまともに動けない。

 だが、となりのセロはなおも立ち上がる。


 このタフさこそ、経験の差ってことか……。


「うぅおおおっ!!」

 セロがボロボロの体で攻撃を試みる。だが、ロースは鼻で笑うように避けるとはらわたに重い拳を一撃。腹を抑えるセロの体が震え地面にうずくまる。


 うずくまるセロの背中に容赦なく足で踏みつけるロース。セロの声にもならない悲鳴が倒れる俺の耳にも届く。耳を塞ぎたいが、塞ぐ力も湧いてこない。


「く……そっ……」

 地面を叩くように拳をつきたてる。肘を立てなんとか立ち上がろうとする……だが、立つための力を貯めるより先に、体の内側に激痛、吐血するばかり。

「ガハッ!?」


 ロースの手により容赦なく攻撃とも言えない、ダメ押しを喰らい続けるセロ。それに対して……俺は何もできない……。


「くそっ!」

 吐血しながらも強引に膝を立てる。だが、結局バランスを崩し、地面に崩れるだけ。

「ハァ……ハァ……ハァ……」


 するとずっとセロを攻撃していたロースがいつの間にか、俺の目の前にまでやってきていた。

 と言っても、顔を上げることはできず、足元が見えるだけ。


「どうした? 立ち上がりたいのか? なら望み通り手助けしてやる」

 俺の首根っこが掴まれたかと思えば、強引に俺の体が引き上げられる。体中がミシミシと悲鳴を上げるのは分かるがそれに対して俺は何一つ抵抗できない。


 ぐっと持ち上げられた俺の視線とロースの視線が合う。


「そらっ!」

 釣られたまま俺の腹に入るロースの拳。さらには続く蹴りが右手の腕ごと肋骨を砕きに来る。


「く……っ!? っ!?」

 痛みをはるかに超えた刺激が脳を直撃。意識が……飛ぶ……。


 その直後、ロースの背中に小さい炎がぶつかる。だが、大した威力はなくロースの視線が俺から後ろに切り替わるのみ。

 そこには、倒れたまま左手を前に突き出すセロ。


「ケイジ……には……」

 だが、セリフを最後まで吐くことなく、力が抜けて手が落ちる。


「まだ足掻けるのか……その根性はたいしたものだ。だが、その程度の一撃ではなんの足しにもならなかったな」

 続いてロースはつかみ続けている俺を再び見る。


「どうやら、先輩は君を助けられないらしい。残念だな」

 ロースが思いっきり、右手を振り上げる。そこに立ち込める強烈な炎。熱と風圧があたりに立つ木々を大きく揺らし始める。


「これで終わりだ……あの洞窟は俺たちがいただく」

 と、右手が俺に向かって振り出される。


 瞬間、何者かが空から降ってきた。

 その衝撃に反応したロースの手が止まる。


 ロースと倒れるセロの間で着地の衝撃が生み出した土煙が舞う。そのまま、ゆっくりと土煙が晴れてくる中、一人の姿があらわになる。


 黒いセミロングを揺らすケイジより少し小柄の女の子。

「ごめんね……こんな状態になるまで待たせて」


 ダーカスの隣にいた人猿種の女、マトがそこに立っていた。

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