第3話 戦闘開始

 セロを吹き飛ばしたコウモリはすぐに俺のほうに視線をよせてくる。 もうこれはどう考えても逃げられる感じではない。


「どうやら逃げるのは無駄な行為だと理解しているようだな。それとも、ただ単に恐怖で腰を抜かしたか」


 ……実際、セロだって実力者だったはず。いや、実際に戦ってる姿見たこと無いけど。でも、少数精鋭って聞いてるし……。

 やべえ、こいつの実力を測るすべがねえ。


「えっと……あなたさまは……いったいどのようなご用件で?」

  そうだ、セロが勝手に攻撃しただけで敵と決まったわけでは無い。話を聞いて丁重に逃がして貰えれば良い。


「俺はエリュトロンレオ団、ロースだ。この採掘場は俺たちがいただく!」

 俺の気持ちなんてこれっぽっちも聞いてもらえずこの男が発言したセリフ。間違いなく、敵。少なくともゲルプイーグル団の敵だとよく分かった。


 てか……、本当に不法侵入者じゃねえかい!


「というか、ずっと気になっていたんだ。なぜ、この採掘場を売ろうとしないのか……。ずっとお前のところの団が占領して、ちまちま非効率な採掘ばっかりしている。そして、実際に来てみれば、まさかイヌと同居していたとはな。


 こんなイヌたちはさっさと討伐して俺たちが売り飛ばしてやる。よっぽど有益にこの洞窟も使われることだろう」


 ……イヌは殺せばいい……てか……。


「悪いな。ゲルプイーグル団は無用な殺生は行わない! らしい。ってことで、理念が違う俺たちの団とは……ぶつかるしかないらしいぜ」


 なんやかんやで自信はあった。それなりに力の使い方も分かってきているし、自分の実力も十分高い(らしいという推測の域をでないがそこには触れない)。


「なんだ、俺と真っ向から立ち向かうきか?」

「どうせ、逃がしてくれないだろう?」

「潔がいいな」


 俺はロースとかいうコウモリ人間を戦うべき敵と認識し構えをとる。対してロースは随分と余裕の笑みを浮かべつつ、軽く手をあげるのみ。

 そのまま、しばらくの時が流れる。


 この洞窟は出口がひとつしかないらしく、ほぼほぼ無風。セロがつけてくれた壁の松明が今尚、この洞窟と俺たちを照らす。


 松明だけじゃ、視界は悪く、相手の姿もはっきり見えないか……。目で追うだけじゃいけないのかもしれない。肌で感じる相手の熱、空気の流れをしっかり受け止めながら、戦う……。

 つまり、気配を感じ取って動きを読む。


 んなこと、でるかい!!

 考えるだけ無駄じゃい!!


「ダァッ!!」

 というわけで、一気に力を解放。全力の一打を確実に当てるべく、体の奥にねむる力を一気に爆発させた。


 俺から放たれる熱と風圧が洞窟内を揺らし、震えさせる。

 と、同時に俺は踏み込み、まずは右フックを高速で叩き込んだ。


 その攻撃はヒット。

 一瞬忘れたように遅れて風圧の波が俺の拳を中心に広がる。


 続いて左拳を打ち下ろす攻撃を繰り出す。それはロースのバックステップによって交わされるが、そう来るだろうと予測していた俺はそのまま接近、右足で蹴り上げた。


 宙に吹っ飛んでいくロースは、態勢を立て直し、洞窟の壁に着地。そんなロースを回り込むように飛びかかり、同じく壁に着地。


 ロースは俺が回り込んできたことをすぐに把握したらしく、裏拳が俺の頬にヒット。よろけかけるも、左拳を構わず振り下ろす。


 俺の攻撃も辺り、ロースはよろめくが威力が乗らなかったらしい、すぐに態勢を戻してきて肘打ちを仕掛けてくる。


 グオンッとでも言うような音が耳元をかする。

「グッ!?」

 とっさの判断で首を曲げるも、右耳を擦過。だが、痛がる余裕なんてものはない。少しを見せたら叩かれる。


 咄嗟の判断でいま、足をつけている壁をける。空中で一回転をしつつ、岩の地面に着地を行った。


 右耳を抑えつつ、ロースへ視線を送る。と、その瞬間、目の前に炎が広がっていた。それがロースの攻撃だと理解し、すぐさま強引に体を横転させる。頭が掻き回されるような感覚に陥りながらも態勢を立て直し、右手を後ろに回した。


 右手に熱がこもり始める。その時、ふとなにか手にいつもと違う感触がよぎった。いつもは流れ続けるエネルギーが右手に溜まっていく感覚。

 これは……!?


 考えるより先に、右手を突き出した。途端、右手から赤い炎の玉が飛び出す。それはたちまち、壁に足をつけているロースへ突っ込んでいった。


 直撃と同時に爆発。一瞬、洞窟内が俺の放った炎魔法で光照らさせる。だが、たちまち爆風となって、洞窟の天井にある岩がつぶてとなり、落ちてきた。


 天井から落ちる石つぶてが落ち着いてくるころ、煙の向こうから両手を前にクロスさせ、防御していたロースが現れる。だが、ロースの体からは煙が立ち込めていた。


「お……おのれ……」

 ロースの怒りが漏れると同時、俺は技が決まったことに笑みを浮かべた。

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