第2話 侵入

 ブレアルクジャッカルの群れを他所に、穴に向かって歩くセロ。俺はそれに続いて足を進める。

 そして俺の足が採掘跡の穴の境界線にかかろうという時だった。


 空を切る音が横から聞こえた。

 その直後に訪れる衝撃が爆風となり俺の体に当たる。少し地面がえぐれたらしく、岩の端くれもまた体に当たった。


「何事っ!?」

 先に反応したのはセロだった。先行していたセロは俺を押しのけ穴から体を出す。遅れてセロの後ろから首をのぞかせ、音と衝撃が生まれた方に視線を寄せた。


 そこには血だまり。そして体から血を噴き出し、倒れるブレアルクジャッカル。一頭として残らず、血の池となった地面に体を沈ませていた。

 おそらく、すべて絶命している……。


 俺はあまりに唐突の出来事で何が起こったのかまるでわからなかった。状況が一向に整理できない。

 だが、セロはすぐに視線をブレアルクジャッカルの死体から斜め上の方向に視線を素早く映していた。


「うん~? どっから入ったんだぃ? まるで気配がなかったねぇ」

 セロの言葉でやっと、俺もこの現象が起きた元凶の存在を視界に入れることができた。


 それはパッと見た第一印象は”悪魔”といったところだろうか。黒く薄い体毛、キツネに少し似ているような顔、そして背中に伸びる翼。手足は少し細めといったところだろうが、確かな筋肉がそこにあるのが分かる。


 生物で言うなれば……人型に大きく変化したコウモリ……?


 その人物もまた、マントをつけている。だが、そのマントは赤で、獅子のマーク。


「それは悪かったな。俺の気配を消すセンスがうますぎたらしい。謝っておこう」

 コウモリ人間はドーム状になっているこの空間の壁に足を付け、こちらを見下ろしている形。そのまま、足を話したかと思えば、宙を浮きながら手を広げた。


「俺の名はロー「隙有り『バゴッ!!』」」


 ……

「えぇぇぇぇぇぇェェ絵江柄ぇぇェッ!!!?」


 一瞬で起きたことを説明しよう。

 コウモリ人間が両手を広げ高らかに自己紹介をしようとしたところ、となりの鳥さんが放った「隙有り」の声とともに、コウモリの顔が大爆発した。


 正しく言えば、火炎の玉がコウモリ人間の頭に命中した。

 モクモクと煙がドーム状に広がる。


「……いきなり、何やってんですか!?」

「え? 不意打ちだけど? たぶん、あれ敵だからぶっぱなした。不意打ちは基本だぜ」


 よく分かった。この人、キタナイ真似をするときだけ、正確変わってものすごくイキイキする奴だ。


「それ、パーティだ! やっほう!!」

 セロが両手を広げたと思ったらあたりに無数の火の玉が形成される。そのまま、すべてがコウモリ人間の体に吸い込まれていく。その直後に引き起こされる大爆発は洞窟全体を大きく揺らした。


「よし、不法侵入の対処終了したねぇ」

 ひと仕事終えたみたいに、パンパンと両手を鳴らして叩く。

 ……一方的に不意打ちでバンバン攻撃しただけの事を対処っていうんだろうか……。


「いやぁ、話が早くて助かるよ」

「「っ!?」」

 まだ、煙が立ち込めるその奥から声が聞こえる。かと思えば、突如強烈な風圧が発生し、煙が一気に吹き払われた。

 とうぜん、煙が晴れることにより姿が現れるのはコウモリ人間。しかも、まるでダメージが入っていないようだった。


「では、わざわざ口で語らず、こちらも拳で語るとしようか」

 そのセリフとともに、コウモリが力を解放。洞窟内に強烈な熱がこもり始める。


 対して、セロは唐突にこちらに視線を向けた。

「確か……ケイジと言ったな」

 そういえば、俺が肯定するよりも先に、胸元をぐっと掴まれた。

「さっさと逃げろ!」


 セロに似合わない剣幕を見せたかと思えば、一気に体が引き上げられる。俺の体はセロに投げ飛ばされ、出口の穴に向かって……

「ガフッ!?」


 穴に俺の体は入らず、その斜め上の壁にガッツリ、思いっきり激突した。


「あれ……ごめんねぇ」

 ごめんですむか、ノーコンが!!


 ずるりと壁をずり落ちる俺の体。

 もう、全身がやばい。でも、「逃がす」というセロの行動は理解できていたので、かろうじて体を立ち上げ、出口に向かって足を進める。


 だが、

「逃げたら、面白くないだろう?」

 いつの間にか俺の背後で拳を振り上げるコウモリ人間。それを視界に入れてしまい、思わず硬直してしまう。そんな俺に容赦なく拳が降りてくる。


「くっ!?」


 だが、その拳が俺に当たることはなかった。セロもまた、コウモリ人間の横に立ち、コウモリの腕を握り締め、攻撃を止めていた。


「いいから、さっさと逃げるんだねぇ」

 セロがコウモリの攻撃を止めながら、こちらに顔を向ける。

「ここは俺がくいと、おらぁああ!!」ドガッ!!


 清々しいほどに再び不意打ちがコウモリ人間に入った。俺に視線を送ったかと思えば、裏拳が放たれ、それがコウモリ人間の頬にぶち当たる。


 が……、

「チキンくん、さっきから随分と楽しい攻撃をしてくれるねぇ」

 コウモリ人間は額の辺りをピクピクと動かしているだけだった。


「……これ……まずいね、ぇえっ!?」

 というセロのセリフが聞こえた時には、セロの体が吹き飛ばされ壁にガッツリめり込んでいた。

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