第5話 入団
「歓迎しよう、少年。入団テストは……合格だ」
そのダーカスの言葉とともに、会場は歓喜に溢れかえった。
「おい、マト!」
「はい、用意しています」
後ろからマトがこの闘技場に入ってくる。その彼女の手にはマント。色は黄色。それはマト、それにダーカスが肩につけているのと同じものらしい。
マトは俺を通り過ぎ、ダーカスの手にそのマントを手渡す。そして、ダーカスは俺の前にまで来た。
「これはゲルプイーグル団員の証となるマントだ。これを着ることでてめえは晴れて、団員になるわけだ」
そう言って渡される。
そんなマントにはイーグル、すなわち鷹のマークが付いている。おそらく、ゲルプイーグル団のロゴなのだろう。
てか、この世界にも鷹っているんだな。
「つけていいんですか?」
「おう、無論だ」
言われ、俺は肩にマントを掛けた。それに合わせて、もう一度観客の歓声が沸き起こる。まさに、新しい戦士への歓迎か。
正直、チートだとか言われてこの世界に送られた割には、思っていたのと違う展開ではあるが……まあでも、精鋭の集まりらしいこの団に入れただけでも十分か。
「で、ひとつ、質問いいか?」
「はい、なんでしょう?」
「てめえ、何者だ、名乗れ」
……えぇ……。テスト、最初の質問がそれかい! まあ、確かに言ってなかったか。
「えっと、啓二です」
「そうか。ケイジか。よし、ありがたく思え。全力でこき使ってやる」
あぁ……そういえばそうでしたね。
で、ゲルプイーグル団の本部へとそのまま、連れて行かれた。
ぐるっと建物の中を案内され、談話室や俺が泊まることになる部屋まで用意されていた。
で、一通り見終わった頃、ダーカスたちが俺の前に立った。
「ま、自己紹介でもしておくか。俺はダーカス。この団の副団長だ。で、隣の奴はマト、人猿種。テスト中も話したが、我が団の最高戦力だ」
そう説明され、マトが丁寧に頭を下げる。
「そして、あれがセロ、人鳥種だな」
そう言って、後ろの方でダラーンとソファに寝そべっている鳥人間を指差す。鳥のように鱗に覆われた手足があるのだが、背中にも翼がある人間だった。
「あと何人かいるが、外出中だ。また、勝手に自己紹介させておく」
そんな説明が一通り終わると、マトが一歩前に出てきた。
「そういえばさ、田舎から来たっ話だけど、具体的にどこら辺から来たの?」
「どこら辺……」
そもそもはっきりと田舎から来たなんて行っていないが、成り行きにまかせたのでそうなっていたのだろう。
だが、どこら辺と言われても……。
「いやあ、言っても分からないと思う……けど」
「方角だけでもいいよ。北の山奥から、みたいな。いや、別に言いたくなければいいんだけど」
「いや、言いたくないっていうか」
方角も糞もないというか。
だって、異世界とか、縦横高さのさらに向こう側、四次元のベクトルになっちまうぜ?
「もしかして、言うのもためらうほどのど田舎だったり?」
……面倒なのではっきり言おう。
「異世界です!」
当然のように沈黙が起きた。
やがて、マトは自分のおでこに手を当てつつ、俺のおでこにも手を当てる。
「……熱なら……ねえよ」
「みたいだね……。じゃあ、まず病院でも行く?」
あ、この世界にも病院あるんだ。やったね、怪我しても安心だ……そういう問題じゃないか。
「結構。俺はいたって冷静だぜ! 元板世界の住所や世界感、どんな情報でもばっちり伝えてやるぜ」
「てめえの妄想話なんざ、聞く気はねえよ」
割って入ってきたダーカスが計り知れないほど怖いっす。
「それにてめえの出身もどうだっていい。異世界からこようが、宇宙から降ってこようが、関係ねえ。黙って働け」
……もしかして、ブラック企業ならぬブラック団に配属されましたかね? なにそれ、ブラック団!? かっこよくね!?
あれかな、「イーッ!!」とか言う戦闘員がたくさんいたりするのかな。
うん、いないよね、絶対。
「まあ、とりあえず今日は休めや。明日から本格的な仕事開始だ!」
あ、マジで? やったね、けっこうホワイト団じゃないか! なにそれ、ホワイト団!? ダサっ!? 黒が白になっただけでこの変わりよう、不思議だぜ。
でも、言われたとおり、今日はじっくり休むことにした。
どうも、今日はいろいろあって疲れた。
無論、明日からはもっといろいろあるのだろうが、異世界一日目。寝床も確保できたんだから、まずはのんびりと過ごすとしよう。
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