第4話 実力差
ダーカスと向き合いながら、俺は気を緩めず戦闘態勢を続ける。
この間にも体中をエネルギーが駆け巡る感覚が続いている。まさに力が奥から溢れ出続けている。溢れるエネルギーの一部は体外に放出されてしまうのだが、そのエネルギーがいろいろな形に変換される。
そのあるいは熱であり、風圧すなわち運動エネルギーであり、あるいは火花。自分の体を中心にエネルギーが渦巻く。
「見事だな……その力……感じる限りなら、俺を優に超えているだろう。いや……あのマトに匹敵するレベルだろう」
「マト? ……あぁ、あの子」
最初、ダーカスの横に居た圭と同じタイプの人間(クマでも鳥でもなかった奴)の女の子の名前だったか……。
「え!? あの子、あなたより強いんすか!?」
「我団の最高戦力だ」
……マジか……。
でも、それに匹敵するってことは……少なくとも、ナンバーツー確定か! しかも、ナンバーワンになれる可能性も十分。
「だが、今のままで自分はナンバーツーだと思うなよ?」
「……え?」
心が読まれたようなタイミングで発せられたセリフに、俺の妄想は瞬く間に終了。
対してガーカスはゆっくりと腰を落とした。そして、この入団テストの中で始めて、戦闘態勢の構えらしきポーズを取り出す。
「確かにてめえの力はすごい。解放された力の底は俺にはしれん。だが、今のてめえが俺には絶対に勝てん。
まずは現実を知り、その身に叩き込むべきことを、その身で実感してもらうぞ」
さっきまでと随分とダーカスの雰囲気が変わった。今までの打って変わり、ダーカスからかなりの威圧を感じざるを得ない。
その感覚にドギマギしつつも、今は相手に集中するべきだと意識を戦闘に向けようと……。
するより先、俺の右頬に衝撃が走っていた。
あまりの刹那。何が起こったのかわからないまま、数歩後ろに後退。気が付けば、目の前にダーカスの姿が。どうやら、肘打ちの攻撃をされたらしい。
そのまま、静かに硬直するダーカスに、不思議な感覚を覚えながらも態勢を立て直す……より先にダーカスの足払いを食らう。
バランスを崩し地面に倒れかけるところ、手をついて完全なダウンを逃れる。だが、頭を捕まれ引き上げられたかと思えば、鋭い膝蹴りが俺の胸元に直撃した。
「がっ!?」
痛みが走る胸元を手で抑えつつ、目の前のダーカスめがけて渾身の一撃を叩き込もうとする。だが、こちらが攻撃するより遥か先に避ける動作が行われていた。
当然のように俺の蹴りは空振り。
少し離れたところに着地するダーカスめがけて突進をはかった。自分にできる渾身の右フックをかけようとする。
だが、俺の攻撃が当たるより先に、ダーカスの蹴りが俺の攻撃の間を縫うように入れられてしまった。
数メートル離れた先に倒れこむ俺。ただ、倒れ続けるのだけは絶対に避けるべきだと思い、直ぐに体をはね起こす。
俺の息は上がり始め、肩が上下に動いていた。
「てめえの構え、戦闘に対する集中、テクニック、そういったものがまるでなっちゃいない。おそらく、戦闘経験がほとんどないのだろう。ゆえに、どれだけ力があろうが、お前は本気の俺に対して、攻撃を当てることも、避けることもできやしない。
今のお前は直感と雰囲気だけで戦っている。もちろん、俺たちも戦いは実質勘だ。考える前に行動しないとやられるスピード感になるからだ。
だが、何年も経験を積んだ勘と、完全な勘では雲泥の差となる。それはてめえの脳みそでも理解できるな?」
まあ、そう言われたら返す言葉はない。もとの世界では平和そのものだったので、戦いなんてアニメ、特撮、映画の世界だ。逆に言えば、アニメ、特撮、映画の世界感をもとに勘で戦っている。
「そして、もう一つ。てめえが絶対に勝てない理由」
ダーカスは指を一本立ててみせたかと思うと、ぐっと後ろに右手をおおきく振りかぶった。その手になにかしら、光のゆらぎを感じる。
「な……なんだ?」
訳も分からず、あたふたする中、ダーカスの右手が前に突き出された。
と、同時に紅蓮の炎が俺の横を一瞬のうちに擦過。俺の後ろに炎の壁が出来上がる。その間、俺は全くもって動けなかった。
もし、標的が後ろの地面でなく直接俺だったら……今頃、俺の体は炎に包まれていたことだろう。
ダーカスは右手に微かに残る火の粉を払いながら言う。
「てめえ、魔法の使い方もしらないだろう? 戦い方と今のてめえの顔をみたらすぐにわかる」
「……魔法……」
思わず、溜まった唾液を喉に押し込む。
計り知れない戦慄、そして同時に巻き起こるワクワク。
「だが、てめえの潜在力は間違いなく本物だ。そして何より、その成長スピード。まだ最初の段階だとは言え、てめえは間違いなく化け物になれる」
ダーカスは芝居がかったように両手を広げ、たからかに宣言した。
「歓迎しよう、少年。入団テストは……合格だ」
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