クマのおっさん、強かった

第1話 入団テスト開始

 街中に連れてこられた俺は、その街の風景を見る余裕もないまま闘技場とか言う場所にまで引っ張られた。


「おら、付いたぞ。さっさとこい!!」

 このクマさん、マジ怖いんですけど……。


 なんて思いながらも、前に進む。


「これは! ダーカス副団長!」


 なんかこのクマ男に向かって敬礼してくるやつが来た。騎士みたいな格好をしていて、しかも横にライオン程度の大きさのドラゴンを従えている。


「うわぁ……マジもんのドラゴンだ……。これ、なんて言うんです?」


 騎士は、俺の質問に対し、背筋を伸ばしたまま声を張って答えてくれた。


「グランガドラです。正式名称はグランガドラ・エコティアラァム。我が軍の主力であります!」


 へー、グラン……なんちゃら。


「あれ? 軍? 団とは違うんですか?」

「はっ、わたしは軍隊所属であります。団とはまた別の……」

「ごちゃごちゃうるせえ! さっさとこい 鼻へし折るぞ!」

 えーっ!?


 こっちの好奇心は全て無視して俺は奥へと引っ張られていった。



 で……。


「俺はゲルプイーグル団、副団長のダーカス! これより、てめえの入団テストを開始する!」


 闘技場の真ん中に立っていた。周りはそれなりの観客で賑わっている。なんか、話によるとこのダーカスとかいう副団長がこうやって入団テストをやるのはめずらしいことらしい。


 そもそもゲルプイーグル団が少数精鋭タイプの団らしく、こうした入団テストもかなり稀ということみたい。


 なるほど、さすが俺。チート力がぐんぐん上がってくるぜ。



 にしても、この闘技場、やたらと広いな。小学校の校庭ぐらいあるんじゃねえか? サッカー場と言われても納得できる広さだ。これを二人で独占している現状を見ると、なんか場違いな気がしてくる。


「さあ、てめえから好きなようにかかってくるといい」


 ダーカスは両手を広げて「どこからでもどうぞ?」とでも言うかのようなポーズを取る。


 まあ、よくわからん、適当にやってみますか。


 一応、神様らしい存在からチート能力もらってるって聞いてるし、なんとかなるもんなんだろう、きっと。


 そんな感じで、構えた。


 俺の構えに少し、ダーカスが首をかしげたように見えた。だが、それを隙だと思った俺は、一気に仕掛ける。


 右足から吹き込みをかけた前進、さらに左足でもう一丁踏み込む。しっかりと勢いを込めて右足蹴りを放った。


 ダーカスはそれを左手の肘で難なく止めてくる。そこにすかさず、左拳でジャブ。ダーカス今度、右手のひらでガード。

「むっ」


 次はダーカスの攻撃。まず、ダーカスの右手が払われる。それによって、繰り出していた俺の左拳が宙に放り出される。そこに出来るのは隙だらけな左側。当然、そこにダーカスの攻撃が入ってくる。


 それを俺は強引に体をひねり込みなんとか避けた。



 さらに続けてくる左手の払いを受け止めつつ右ストレート。ダーカスは顔を逸らし避ける。

 ダーカスの攻撃を避けつつ攻撃を重ねるが、一つとして決まらない。


 一度態勢を立て直すべく、ダーカスの攻撃を避けつつバックステップで後退。間合いを図る。


 だが、態勢を立て直そうとする頃、ダーカスは迷いなくこちらに向かってタックルを仕掛けてきていた。


 態勢を立て直し、両手を使って正面でクロス。防御態勢を取る。そこに容赦なくダーカスのタックルがあたる。

「ぐっ」


 全体重を前にだし、態勢を崩すまいとする。その判断は功を奏したらしく、数メートル後退したが、俺のガードは崩れなかった。


「よし。行ける」

 俺はガードを解き、両手を地面につけつつ、体を反らす。タックルの反動か少し硬直状態にあるダーカスに対して、両足を使って思いっきり蹴り上げた。


 うまく打ち上げに成功。空に飛んでいくダーカスを捉えつつ、俺はバク転し、態勢をもう一度整える。そのまま一気に跳躍した。


 ダーカスめがけて、某仮面のヒーロー如く必殺蹴りを放つ。

「ダァリャァアアアア!!」


 捉えた!

 確かにそう思った。


 だが、ダーカスはあろう事か空中で体を回転させると、俺の蹴りを避ける。そのまま、足をと噛まれたかと思うと、思いっきり下に投げ落とされた。


 グングン近づいてくる地面に対し、頭から落ちるのはまずい。体を丸めてかろうじてダメージを最小限に抑えて落下。地面に這いつくばった状態で上を見る。


「うっ、やば!?」


 見えたのはダーカスの足裏。ダーカスの蹴り技がすぐそこまでしまっていた。もう、とにかくまずいと体をはね上げた。コンマでダーカスの蹴りが地面に衝突。衝撃波が俺の体を揺らしつつ、転がりながらも強引に立ち上がった。


「……あっぶねぇ……」


 結構冷や汗もんだった。だけど、まだ現状、特にダメージは受けていない。息もきれていないし、まだまだ行ける。


 といっても……相手さんも変わりないが……。


「うん、いいねえ」

 ダーカスは首をゴキッと動かしながら、そんなことを言う。


 観客からだんだん歓声が生まれ始め、どんどん闘技場内がヒートアップしてくる。


「俺は体、十分あったまったぞ。てめえも十分だろう。準備体操は終わりだ。そろそろ本気でかかってこい。さあ、てめえの力を解放しやがれ」

「おう! いくぜ!」


 高ぶる気合が俺の心を揺らし、ダーカスに対して勢いで返事する。


 が……。

「うん?」


 ……。


「解放ってなぁに?」


「ぁあ!?」

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