第4話 謎の連中

 ぐったりと地面に転がっている頃、なんか「ゲルプイーグル団」と名乗りながら颯爽と三人やってきた。


 今、この場にいるのは俺と、腰抜かしたままポカンとしている人が数人と、例の三人。しばらく、沈黙の状態が続く。


 が……冷静になってその三人の人物を見て……。

「熊と鳥が立って喋ってる!?」

「「ひでえな、その言い方!?」」


 いや、だって……本当にその通りなんだもん。正しく言えば、本当に熊が立っているというよりは、クマに似た何かが立っているんだが。あと、鳥に似たなにか……。


「オメエだって、猿だろうが! 猿が喋ってよくて、熊はダメだってのか、ああん?」

「ご……、ごめんなさい」


 かなり大きな腕で頭を捕まれ、顔面で威圧されたら泣きながら謝る他なかった。


「もういいじゃないですか。それぐらいで……人狼と人鳥と見たことないってだけじゃないですか?」


 そう、三人組の仲、唯一俺と同じ容姿をした女の子がそう言ってクマ男を促していた。


「ふん、人狼も見たことないとか、とんだ田舎もんもいたもんだな。ま……にしてもだ……」


 そう言って、そのクマ男(話の流れからして人狼)は俺の右手に視線を寄せた。

「おい、マト。右手にべっとりついてる血を落としてやれ」

「はーい」


 そう言うと、その俺と同じ容姿であるマトと呼ばれた子は、さらっと右手を振った。すると、どこからともなく溢れ出した水が俺の右手を包み込み、気が付けば血が綺麗に洗い流されていた。


「はい、できた。でも、匂いは完全に取れないと思うからあとでしっかり洗ってね」


 そう言われ、試しに右手の匂いを嗅ぐと、妙に生臭い匂いがツンと耳に入り、思わず鼻をつまんだ。


「どうもありがとう」

 鼻をつまんでいた手をはなし、マトに面と向かって顔を向けて礼を言う。そこで少し笑顔を見せたマトだったが、それを見れる時間もないまま、再びクマ男に頭を掴まれた。


「で、てめえ。ここに転がってるゴブリンの群れ。一人で潰したらしいな」

「え……ええ、まあ」


「ざっと、二十頭ほどか。小規模な群れとは言え、一人でやるのはなかなかももんだぞ。ここのゴブリンは【サーベルゴブリン】。ゴブリン類の中でもかなり凶暴で強い方だ。このあたりでは、かなり危険な害獣として問題視されているからな」


「へー」

 まあ、勝手がわからなかった最初は割と苦戦したし、強いと言われても納得かな。まあ、対してそこに興味はないけど。


 ところでお前、どこの団の奴だ?」

「え? どこの団?」


 団とはなんのことだろう? さっきこの人は「ゲルプイーグル団」とか言ってたし、いくらかあるんだろうけど……。


「……無所属」

 ここは素直に答えておいた。


「無所属!? じゃあ、あれか。フリーの冒険者とかか?」

「ふりーのぼーけんしゃ?」

 なんのこっちゃい。


 だんだん、クマ男の顔がゆがんでくる。


「……仕事は?」

「……無職です!」

 ここも素直に堂々と答えてやった。


 そして、遂にクマ男からポカンの顔をいただきました。



「あ、あれじゃないですかね。田舎から出稼ぎにきたってやつですよ。腕っ節もそれなりにあるみたいですし」


「ほう! ってことは、この街でこれから職を探すというわけか!」

「そーなんじゃ、ないですかねー」


 この世界の知識が特にあるわけでもないし、話の流れに全てを委ねてみることにした。


 無職であることは事実だし、なによりこのまま稼ぎがなかったら死んでしまうと思う。だれか、養ってくれる人がいるんだったら別ですけど? ねえ、かーちゃん?

 はい、いない。かーちゃんは向こうの世界に置いてきた。とーちゃんも置いてきた。


 なんて感じで呑気に考えていると、クマ男は突然、にやりと笑いだした。


「よおし、少年。職を探すというお前にいい仕事をやろう。サーベルゴブリンの群れを一網打尽にしたお前にとっておきの職種だ」


 といいつつ、ガッと思いっきり、俺の頭を掴んで引き上げてきた。この人、何回人の頭を鷲掴みにしたら気が済むのだろう。


「有無言わさねえ、俺の団に入りやがれ!!」

「いや、俺の団って、あなた副団長でしょ!?」

「黙ってろ、マト。俺はこいつを逸材だと見た。どんなに文句を行ってこようが、全力で団に入れる。ただし!」


 最後の「ただし」を強く言いながら、頭から手が話される。重力に従い、俺の体が地面に落ちると、クマ男は仁王立ちした。


「俺と試合をしろ! 入団テストだ! 俺を認めさすことができたなら、お前を全力でこき使ってやる」


「……えぇぇええ!? 言ってくることむちゃくちゃ!?」


「文句は言わさん、そう言ったはずだ」

「……はい」


 なんかもう、話の流れに身を任せた結果、エライ事になった気がする。だけど、まあ、いいや。好きにやろう。


「……あれ? そういや、もうひとりいませんでした? 鳥人間の人……」


 確かにたって喋る鳥がいたはずだが……なんて思っていると、少し先、俺が壁にめり込ませたゴブリンをツンツンと何度も突き刺している姿が目に入った。


「それ、ツンツン。ツンツン。やっぱ、もう死んでるか……」

 などと言いつつ、木の枝で壁に貼り付けられたゴブリンを突き刺し続ける。


「ギィィィィ!!」

「やった、生きてた! とどめ!」

 バゴッ!



 まとめると、鳥人間はゴブリンの生死を確認して、目が覚めて鳴き始めたところ、生きてたことに喜びを感じ、こぶしでガッツリ殴ってとどめをさした。


「……なかなか……いい性格してますね、あの人」

「……だろ」

「あちゃー」

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