ショッキング・ショック

 以下がわたしの上書きしたプロット。


 場面は夜の自部屋。

 両親と同居する少女。

 少女のその両親はふた親とも深甚な精神疾病の症状に苛まれている。

 自部屋で少女は契約している動画配信サイトで映画を観ている。

 自部屋そのものには異常は見られない。

 ただ、PCの画面の中の、静けさに恐れを感じている。

 少女はその画面の映像の恐ろしさから逃れるために、自分を客観視しようと映像の小説的な描写を脳内で始める。


「血が、腕首から黒いインクのように細い線を描いて手のひらのあたりまで、つ、って流れているわ。

 その男の子は女の子の血を、ちろっ、と舌先で舐めてる。

 あ、女の子が目を閉じたわ。

 息をしてない。

 男の子は彼女の埋葬の準備をしてるみたい。

 だって、そこはグレイブ・ヤードの地図の看板が立てられたエリアだもの。

 女の子の履いてるスニーカーの色が、どうしてオレンジなの?

 怖い。

 怖いよ。

 どうして墓標のグレーと地面のブラックの色がモノクロのような風景で目の前に広がってるのに。だから血の色も黒いインクのように見えるんだと思ってたのに。

 靴だけオレンジなの?」


 少女は自部屋でサイトを観つづける。

 脳内の描写が止まらない。

 客観的な視点から恐怖を縮めようと思っていた目論見は成就せず、自らの描写に恐れ慄き始める。


「オレンジの靴が、脱げたわ。

 え。

 どうやって脱がしたの?

 ひとりでに脱げるはずなんてないのに。

 男の子はその女の子の靴を右手にぶら下げて段々になったそのグレイブヤードを丘の上に向かって歩いて行くわ。

 ああ。

 早く夜が明けないかしら?

 いいえ。違うわ。

 まだ、夜でよかった。

 もしこれが誰も家にいないどころか、近隣の民家にも誰もいず、熱を出して小学校を休んだあの昼下がりみたいな、周囲数百メートルにわたってわたしだけの孤独な空間だったならば、光があっても、耐えきれない」


 音がした。

 自部屋に初めて変化が訪れる。


「何?」


『誰?』とは訊かない少女。

 まだ人間の形をした霊魂が見えた方がマシだったのかもしれない。永久にループする解明不能の恐怖心を植え付けられてしまったのだから。

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