プロトタイプ・プロット
naka-motoo
ワナビのショック
背筋に衝撃を受けた。
次の瞬間には、観るんじゃなかったと思った。
はっきりしないけれどもわたしが小学生の時の記憶。季節も思い出せない。
けれども、真昼の白い日の光がレースのなびくカーテン越しにフローリングの部分部分をやっぱり白く染めるそんな、多分、午後。
一人で家にいるその時間に、リビングの液晶テレビに映り込んだ、黒と灰のコントラストの効いた映像。洋画だった。
たぶん、『悪魔』の描写。
それは決してグロテスクなわけではなくって、ごく普通のブロンドの透き通るような肌を持った人間の男の子として描かれていた。
なのに、その笑みが、どう取り繕った表現をしても、おぞましかった。
わたしは時を経て女子校に通う年齢となった。
「あげた?」
「うん、あげたよ」
毎朝わたしの少ない級友と交わす挨拶がわりのやりとり。
べつに誰かに処女をあげたわけじゃない。
WEBの小説投稿サイトに小説をUPしたっていう会話だ。
一年生なりに中学生の童顔をひきずるわたしの級友に、解説を付け足した。
「あげたのは、プロット」
「え?」
「ホラーの」
その晩、わたしは自部屋でひとりきりになったいつもの時間に、タブレットPCを、コ、と起動してそのまま夕べあげた『プロット』をほぼ全面的に書き直す作業に入った。
塗りつぶす、っていう表現が適切かもしれない。
わたしがなぜプロットの段階のそれをUPしたかというと、読み手の反応が知りたかったから。
わたしはワナビだと自覚して、将来本気で作家として生計を立てようと目論んでいる。そのために中学時代は読書に明け暮れた。読みたくないベストセラーすら我慢して読んだ。書くために。
高校に入学した瞬間からWEB小説サイトに投稿を始めたけれども、PVは一向に伸びない。世の主流である異世界転生ものなんかを書くことがまずはわたしという書き手を知ってもらう手始めかとも思ったりはした。たとえば革新的なロックシンガーが、本当にやりたい前衛的なアルバムを作る資金を稼ぎ出すためにキャッチーなアルバムを数枚作るようなそんな作業と割り切って。
でも、できない。
書くために我慢して読みたくないベストセラーを漁るように読んだ、ああいいうことを書くときにまでしたくない。それこそ本末転倒というものだろう。
ホラーならば、と思った。
事実、ホラーには優れて芸術的な要素が散りばめられる小説があると思う。
わたしが小学生の時に観た、そのショックそのものだった洋画の原作も、確かそういう類の小説だったろうと思う。
あの、脳の血管が一瞬にして収縮した映像を、小説でもって表現できないか。そして深く書き出す前に読み手たちの感触を掴んだ上で書き始めたい。
昨夜の反応が今ひとつだったので、わたしはその文面を全面的に塗りつぶし始めた。
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