第21話 燃えつきる

「あ、ばれましたか」

「当たり前でしょ。なんで窓ガラスを割って侵入したのに美愛ちゃんが気づくんだよ」

「音がしました、というのはどうでしょう」

「それなら、あんな惨状になる前に警察に通報とかするでしょ」

「そうですね」

「なにより、さっきの警察官、僕に美愛ちゃんのことを聞いたりしてさ。要は、美愛ちゃんがまるで僕の恋人かなにかだと思っている口振りじゃないか。部屋を訪れた理由が嘘をついた方がましだったってことでしょ」

「B評価です」

「なにがまずかったの」

リンリンちゃんがため息をついた気がした。

「たしかに、犯人が水狐さんの部屋を荒らしているの、見ていました」

「やっぱり。で、どんな人だったの?」

「ジャンプだけで二階まで飛び上がり、片手で殴っただけでガラスを粉々にしてしまう、そんな石像です」

「は? 石像?」

どうやら我が家は石像によって荒らされたそうだ。僕はいつの間にか石像の恨みをかったらしい。

「そんなわけないだろ」

「間違いなく石像でしたね。いわゆる、ガーゴイルというやつでしょうか」

ガーゴイル、西洋の建築物にある彫刻で雨どいの役割を果たしているものらしい。もっぱら翼のはえた怪物のような意匠が有名だが、人形のやらただの獣やらと色々あるらしい。置物として家に置いている人も多いだろう。

吹き抜けていく風に足が冷えてきた。砕け散ったガラスが日差しを反射している。

「石像が僕に何の用があるっていうんだ」

激しい鼓動を今になって感じはじめたのは自分の不感症めいた気質のせいだろうか。それとも部屋の状況を復元するために必用な金のことを今さら思い当たったからだろうか。

そういえばいつも僕は正面で起きたことに対して不誠実であった。長年の友人の頼みに背いてオカルト研究会に入り彼をつき合わせた。

「へぇ、オカルト研究会に入ったんですか」

「たまたま、それも入れられたに近いよ」

「一緒に釣りサークルに入ってくれると思ってたよ」

そのときの雪治の顔は、しょんぼりという語がそのまま当てはまる落胆の顔だった。この大学に入ったら、毎日バス釣りに出かけることも不可能じゃないと喜んでいた。

「誘われてなかったし」

「それは、それは意図をくんでくれると、水狐くんならと信じてたからで」

「信じないでほしいし、別に釣りサークルに入ればいいじゃんか」

振り返ればなぜそこまでオカルト研究会に拘ったのか分からないが、雪治の頼みを聞き入れてやる気なんてなかった。むしろ、どうして着いてこようとするのか不明で気味が悪い。

山を切り開いた町だから冷たい風が吹き下ろす。湖の方に向かう風だった。

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