第19話 燃えつきる
久しぶりに聞いた名前ですね、と警察に言った。どうやら坂井雪治は人を殺したらしい。迷惑なことに彼が逃亡する間際に家を燃やしたそうだが、燃え残った中からオカルト研究会の会誌がでてきたそうだ。隣にいる満理花さんがひっきりなしに煙草を吸うから、警察の目がどんどん鋭くなる。「行き先に心当たりはありませんよね」もちろん首を振った。
どうやら彼は世間を賑わせているらしい。ネットでは顔写真も特定されており、罵声を浴びているとか。
「ひどいことになってるよ、まぁこいつはテレビがないから知らんみたいですけど」
テレビどころか新聞やネット環境にさえありつけていない。だから、雪治が殺人犯としてひどい罵声を浴びていることを今日しった。
「坂井雪治とはどんな関係でしたか」
「僕とは小学校のころからの連れです。そして、同じ大学の同じサークルで満理花さんと会いました」
男を残して店を出た。店の外は建物が風に立ちはだかり冬のざわめきがやかましい。
「うちが知るわけないやん。言うてサークルに顔だしてたのだって一年もなかったしさ」
「僕もですよ。なんならまだ海外で遊んでいるんだと思ってましたし。まさか人殺しとか」
ひどく冷え込む日であった。満理花さんが黒のファーコートに手を擦り付けて摩擦で暖をとるから試供品で貰っていた使い捨てカイロを渡した。
「幼馴染のくせに」
「水狐さんのお友達がどうしたんですか」
背後に美愛ちゃんがいた。
「あぁ、こん前の」
「お久しぶりです満理花さん」
「どうしてここにいるんだ?」
満理花さんの働くガールズバーから最寄りの喫茶店である。つまり大学生にはあまり用事のない場所である。
「それより、人を殺したとかなんとか。物騒ですね」
「あまり大きな声で言わないでほしいな」
耳に息がかかり「話をそらした」満理花さんがささやいた。 そんなことは分かっている。
「お二人はその人を探し出すのですか?」
「そんなことするわけないでしょ、無給で警察の手伝いとか。暇なこいつとちゃうんやし」
「なるほど。では、水狐さんをお借りしますね。今から探しに行くそうなんで」
「は?」
僕は寒空のなか大阪駅の方に引っ張られた。
レザーグローブがぎゅうぎゅうと鳴るため耳が痒い。満理花さんが見えなくなるまで手を離されなかった。
「はやくその人を見つけないとまずいですよ」
「犯罪者は野放しに出来ないってこと? 分かるけど、僕の仕事じゃない」
そして彼女はスマホを取り出していくつかの画像をみるように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます