燃えつきる

第18話 燃えつきる

鉛筆を削らなくなり数十年たった。あのごりごりと手の中で回す労苦を肩代わりしてくれている筆記具には感謝している。僕は。

思考は電気であり、鉛筆を通して紙に流しているのだという珍論を唱えていたのだ。雪治は。

「水狐くんはどの時点で自分の考えが完成したと思ってる?」

「レポートを提出したとき」

「なるほど、つまり発表したときに完成したというわけですか」

「他人に見せることが目的だからなぁ」

「ヘミングウェイは書き直すことに重きを置いていたようですが」

「そんなに立派なもんじゃない。要らない文章を捨てて足りない何かを補って完成させる、その辺の学生と一緒だよ」

満理花さんのもとに集まったオカルト研究会の人々は、彼のように饒舌な人が多い。会長からしてそうなのだ。

「書いたとき、文章を出力している瞬間、即興というんでしょうか。舞台に立ったプレイヤーが一秒前に戻れないでしょ」

「その一秒を積み重ねるため何度も舞台の裏側でやり直すんだろ」

「そうですね、ははは、やっぱり水狐くんは面白い」

そして彼は休学してどっかの国へ行った。たまに紀行文のようなものを添付したメールが送られてきた。そのまま穴埋めのために会誌に載せていた。

それ以降は会っていなかった。いつもこんな調子であるが、僕は自惚れではないため、彼の論点の矛盾を言い負かせたのは彼に原因があると思っていた。旅立つ彼を見送るときが最後の会話だった。

「とにかく、書きたいことはあるんだけどさ、どれも手付かずのままで終わりそうだ」

「大した内容なんて求めてないでしょ、満理花さんも」

「やりたいことが、できそうなんだ。オカルトからでも正義は求められるって示したいんだ」

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