第14話 ローラはひとりきり
ほとんど初対面といって差し支えない人と食事をする緊張と、そのような人に全額奢られるという不安まじりの喜びと、それを喜ぶことへの恥じらいを、全て胸に秘めて親子の後についていった。
「名前をいってませんでしたね。有城利亜といいます。この子はローラです」
「ローラって外国の人みたいな名前ですね」
それに女の名前だ。
「相方がそう名付けたんですよ」
僕はさっきまでこの人を彼やら父親やらと呼び掛けていたが、よくみればこのような美形でかつ背後を歩けば分かるが、髪の残り香やらが男のはずないだろう。だが、この日の服装はデニム地のシャツにライダースジャケット、そしてタイトなジーンズで引き締まった印象を与える。女にモテそうな服を選び成功していることが少しうらやましい。そして食事に行くのが、僕ときた。金の無駄遣いではないだろうか、
「水狐さんは食べたいものがありますか」
「ローラに合わせてください」
「この子に聞いたらラーメンとかハンバーグしか言わないですよ」
「じゃあ利亜さんが決めてください。僕は外食をあまりしないんで」
「お料理が趣味なんですか。お恥ずかしいことに私は料理が苦手でして。盛り付け方を勉強してるんですけど自分でやってみるとうまくいかないものですよね」
「はぁ、そうですか」
貧乏なんて気にしてもはじまらないが、今夜は眠る前に涙を流すことになりそうだ。
結局、ハンバーグがいいというから洋食屋に入った。利亜さんは恥ずかしそうにしていたが、僕が店選びをせずにすんで良かった。
案内されたテーブルにつく。カレーライスにした。単にオススメと書かれていたからだ。ローラはハンバーグ、そして利亜さんはストロベリーパフェだけだった。店員も呆気にとられたようである。
「なんというか、メインやらを飛ばしてデザートって変わってますね」
「そうかもしれませんね」
もしかしたら、僕の食事代を払うことが厳しい懐事情なのかもしれない。見栄で誘ったもののいわゆる相方さんに内緒なのかもしれない。そういえば配偶者を相方と呼ぶものなのか。
「お前はまた他人の女を狙うのか、懲りないな」
目を覚ましたリンリンちゃんがゴロゴロと笑う。頭が少し痛くなった。どうやら僕の記憶を読み取ることもできるらしい。しかし、恵さんは旦那がいると言ってなかったから、大きな誤解である。
カレーライスは大変美味しかった。スパイスやらの違いはわからないが、牛スジ肉が柔らかく煮込まれジャガイモも濃厚な味わいだった。
「ところで、本当に私が男に見えましたか」
「えっと、はい。女性とはしらず失礼なことを言いました」
「あら、次は私が女に見えるんですか」
艶っぽい口調だ。絶対にわざと、僕を弄んでいる。
「僕は、えっと、貴方の気にさわったのなら謝りますけど、そうじゃないならややこしい話は苦手です。カレーを食べるだけのときに、貴方の性別はあまり興味が無いというか。貴方が見てほしいと思うのはどちらですか」
「貴方が思う方で」
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