ローラはひとりきり
第12話ローラはひとりきり
美愛ちゃんの見立てでは僕は確実に妊娠しているらしい。らしいというのは、男の僕のどこに子を宿す臓器があるのかということがさっぱりわからないからだ。
しかし、膨れあがった腹と、時折、胃の壁をとくんと叩かれるような鼓動を感じているのは確かだ。当然、めまいや吐き気もひどいものだった。
「なにがあったか聞かせてもらえますよね」
なんで僕はここにいるのかとおもっていた。年始に溢れかえった百貨店の中で背中にあたる紙袋、僕の足を踏んでいくスニーカー、鼻を麻痺させる化粧品、誰かの泣き声。
「美愛ちゃん、僕かえっていいかな」
「情けない男性には、レディの荷物持ちが似合ってますよ」
「せめて、梶も呼ばせてほしいよ。福袋が腕に食い込んで痛いんやって」
美愛ちゃんは僕の言うことなんて歯牙にもかけずさっさっとエレベーターを上がっていった。
ソファーは偶然にも誰もおらず、腰かけて隣に荷物を置いた。鞄から飲みかけのミネラルウォーターを取り出した。
九九を覚えたくらいの少年に足をつつかれた。そして紙袋を指差した。この子も疲れているんだと判断して、紙袋を床に置く。
「ひとりじめは駄目なんですよ」
「ごめんね。ほら座ってちょうだい」
少年はソファに腰かけた。しばらく目の前を過ぎていく人々を眺めた。
彼はちらちらと僕の方をみてくる。視線を頻繁に感じた。僕も似たような子だったからわかるが、大人とはそこにいるだけで畏怖するものだ。
「もしかして迷子とかじゃないよね、きみ。お父さんとかお母さんとはぐれたとかじゃないよね」
「関係ないでしょ」
「きみは知らないかもしれないけど、困った子供を放置するだけで不道徳なんだよ」
僕は水を飲んだ。そして家で食べるために買っておいたチョコレートを開封して、ひとつ差し出した。
「お父さんたちとはぐれたのなら、君がいるべきはここじゃないんだよ」
少年はチョコレートを口にして、泣きはじめた。
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