第10話 思い出は頭の中

「私の魂がまだこの世に留まっていることがそもそもおかしいのです」

「え、恨みがあって幽霊になったんじゃないの」

「だとしても殺されたものたちが全員現世に留まれば、この世は幽霊まみれでしょうよ。この国だって、先の戦争やらでもたくさん死んだわけですし。それに私は殺されたわけではないですし」

「で、僕にどうしろと」

「なんとか成仏させてください。さもなくば、貴方も天に召されます。このまま放置されると毒を盛られて死んだようなものになります。もって今晩というところでしょうか」

「そもそも急に僕のところに来ないでほしかったな」

「私があの暖かいところで寝てたのを貴方が起こしたんですから、どちらかといえば、あなたの方が私のところに来たんです」

「もしかしてあのバッチいエクトプラズム」

リンリンは僕の眼球に鋭い爪を突き立てた。すんでのところで避けたが目尻が切れた。


「わざわざ成仏したいだけなら、なんで僕を巻き込んだのさ」

「強引な手段なのは謝ります。ですが、こうでもしないと、私の辛さを、誰にも分かってもらえるとは思えなかったんです」

「それはいいから、はやく僕の身体に戻してくれないか」

「はい、わかりました。どうぞこっちです」

一際輝く白い穴の中に誘われるのであった。


目を覚ますと、正座をした美愛ちゃんがいた。頭をかかえて僕を見る目が宗教画のような慈しみの顔だった。

「水狐さんは、ほんとうに間抜けなんですね」

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