第8話 思い出は頭の中

「そういやさ、新しいネタができたんだけど、見る?」

「お願いします」

缶ケースを渡された。アニメふうのキャラクターがプリントされたお菓子の箱のようである。手のひらの上に乗るほど小さく、中には指輪が入っていた。

「ちなみに、梶から貰ったピンキーリングやねんけどな」

満理花さんは、そのピンキーリングを小指につけた。美愛ちゃんは怪訝そうな顔でオレンジジュースを飲む。僕も小箱を置いてハイボールを口にしようとした。 「満理花さんでしたよね、何がしたいんですか。私は関係ないと思いますけど」

「べつにいいでしょ。退屈しのぎと思ってて」

「美愛ちゃん、満理花さんはマジックが得意でさ。たぶんこれもそうでしょ」

「そうそう。今からこの中の指輪を箱を開けずに戻したいと思います」

僕は蓋を閉じて手のなかに握りしめた。僕の手の甲に満理花さんが人差し指で撫でる。そして、口づけ。戸惑い、握っていた箱を落とした。そして、蓋が外れた。指輪が輝きながら転がりグラスに当たる。柔らかい音が響いた。

「どうやったんですか」

「今まで種明かししたことないやろ。諦め」

そして満理花さんの視線の先は端の席の男に向けられていた。そして頭をかきむしる。男はカウンターの向こうにいる女と悶着をおこしていた。

「こんなに寒いねんやし、なんか女の子もアレやしやのに、このサイズで2000円はないわ。な、もっと常識的なさ。とくに今日なんかは客がしんどい思いもしてるんやし」

「空調の故障はあらかじめ言ってましたし、常識かどうかは人によってちゃうでしょ」

あぁなるほど。

「止めなくていいんですか」

「あの人、先輩やし何とかするやろ」

美愛ちゃんのオレンジジュースをもう一杯と僕のハイボールを二杯、そして残りは満理花さんの分として1万円が消えた。今日はなんの日だったのだろうか。

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