第7話 思い出は頭の中
「美愛ちゃん、これ」
「え、食べ物ですか」
紙袋は百貨店のもので、その中に入れていた。要らぬ誤解を招いたようだ。
「あぁ、いやそうじゃなくて」
「いやっ、エクトプラズムじゃないですか。こんなの拾ってこないでください」
時間も遅くりすぎたから、僕だけ温泉はキャンセルになった。また今度があるのだろうか。さて、僕はこのエクトプラズムらしきものを美愛ちゃんに渡せば、厄介な事に関わらずにすむと思った。本当に、薄気味悪いものを見ただけであったと信じていた。
「あんたが余計なことをしたせいで寒くてしゃあない」
夜に、満理花さんから電話がかかってきた。まさに今、仕事をしているところではないだろうか。時刻は23時だ。
「店の皆が、あんな気持ち悪い暖房、修理に出すまで使いたくないって言いよるねんけど」
「すみません」
「寒い寒いって、客はすぐに帰るし、なによりうちらの家のストーブじゃうちらしか温くならへん」
自分たちを優先しているのかと驚いた。
「でも、チラシ配りやら掃除やらも手伝ってくれて、感謝はしてんねんか」
「いえ、何も気になさらず」
「ついでといったらなんやけど、今日の売上になりに来い。5千円全部つかって飲め。というかそれ以上飲め。ソフトドリンクもあるから電話してた子も連れてこい」
満理花さんはいつでも満理花さんであった。
「じゃあ、えっと、ハイボールで」
「私は、オレンジジュースでお願いします」
満理花さんはカウンターに手をついて、身体をぐねぐねさせる。もっと頼んでくださぁいとのことだ。今朝僕が着ていたサンタコスチュームを身に纏う。所在無さげな美愛ちゃんはスマホに釘付けである。メール作成画面に、「帰りたい」の文字を打ち込んでいる。僕にどうしろというのだ。僕は紙袋を渡した。
「やっぱり、要らないので返します」
「そうやと思った。まぁ、うちらで処分しとくよ」
満理花さんにしては、どうしたわけか聞き分けがいいではないか。
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