第4話 複製された女

「おそらく今月のはじめ辺りにも会っていますよね。けれどその間は確実に桜井、えっと奈良の実家にいました。大阪には出て来ていません」

僕の方こそ奈良に行ってはいない。まして桜井というおそらく彼女の実家があるところなのだろう、はじめて聞いた地名である。

「ここ数ヵ月、偽物の私、いわゆるドッペルゲンガーが現れていてそれらが手当たり次第の男性と、その」

大丈夫です、分かりましたから、とだけ伝えた。

「で、城野さんは心療内科医なんですよね。彼女の主治医ということですか」

「水狐さん、さすがにあんな目に会っておいて、まだ現実的な解釈をするのは逃げでしかないですよ」

クスッと笑って城野は写真とメモ書きを懐から取り出した。20枚ほどだろうか。全て被写体が余所を向いていて、かつ離れたところから撮影されたものだ。大きな特徴は、色んな男性と恵さんが写っていることだ。僕の写真もあった。仕事終わりに居酒屋へ行った日のものだ。

「これら全て、恵さんのドッペルゲンガーということですか」

「はい。それも私が、彼女の主治医からの紹介を受けてからですので、これでも一部のはずです」

その写真には、僕の知人も写っていた。

「男たちに共通点とかあるんですか?」

「いいところに気がつきますね。えっと、まず彼女の旦那さんを始点にして」

そうして写真を順に並び替えていく。よくみれば写真の裏にもメモが記されている。

「順はだいたいこんな感じかな。旦那さんの知人から数珠繋ぎになってますね」

「なんのためですか」

城野はさぁって手を降った。

「そもそも、この調査をしてるのは、彼女の旦那さんの行方を探すことが目的ですし」

「はぁ? そんなんよりもこっちの方がよっぽど」

「確かに、余程不可解な現象です。でも、私はあくまで探偵ですから、こんな事を解決できるわけないんですよ。あくまで、失踪した亮太さん―恵さんの旦那さんを探しているだけです」


「とにかく、次に恵さんに会ったら連絡してください」

「でも、私の前にいた恵さんはダンゴムシに食べられましたよ」

恵さんは心底驚いた顔で私を見たが、もはや彼女の身に何がふりかかろうと、何も不思議ではない。

城野の車で家にまで送られる道中、ダンゴムシと恵さんの残骸を放置して、それに扉も開けたままだと思い出した。

「城野さん、どうしましょ」

「さぁ。私は探偵ですし管轄じゃありません」

「じゃあなんで、あんなダンゴムシやらドッペルゲンガーに関わってるんですか」

「お金が貰えるからですかね。こういう内容だとふんだんに儲けられるです。ドッペルゲンガーの理由とかを聞きたいんでしょうけど、さっぱり分かりません。私は旦那さんを追うよりその辺にいる恵さんを探す方が楽だし、一緒にいる可能性が高いと思うから恵さんを追っているんです」

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