お仕事その5 「私に対して悪行を尽くしてきました」
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう・・・?」
言い慣れていない挨拶に口が回らない。
全身を高貴な衣装で覆い、醸し出す雰囲気は清純さそのもの、背後からはまるで光り輝くオーラがあふれ出ていて直視するのも憚られるようだった。
「私、オブリージュ家皇女、フランチェスカ・サン・オブリージュと申します。気軽にフランちゃんとでもお呼びくださいましね」
呼べるか!!
本物のお姫様、それが今日のお客様だった。
「そ、それでは、フラン様。本日はよろしくお願いいたします」
「もう、フランでよろしいですのに・・・」
無理ムリむり・・・。
何だか少しでも無礼なことをしたら遠くからスナイパーの弾丸が飛んできて殺されそうな気さえするし・・・。
しっかし、やっぱり本物は違うなぁ・・・。
輝いてるもん、比喩じゃなしに。何かもう、キラキラしてるもん。
しかもさっき資料見たら同い年なんでしょ・・・?こんな綺麗でスタイルも完璧でしかも傾国の美女ときたら、同じ女として自信無くすよなぁ・・・。
「レイン様っ!」
「は、はひっ!?」
私が軽く落ち込んでいると、急に彼女は私の両手をがっちりと握ってきた。
うわ、柔らかい手・・・。すべすべでふわふわだし・・・。
「貴方様はご立派な方ですね」
「へ・・・?」
「異世界転生。
な、なに・・・この感じ・・・。
「私などには到底真似のできない偉業です。素晴らしいですわ、もっと自信を持ってください」
何かこう、自らひざまずいて謙りたいような感覚・・・。
「もっと自らを誇ってよいのですよ、レイン・アーワル・カーネーション」
「は、はいっ!このレイン、精一杯勤めさせていだたきますっ!」
「ふふ・・・」
はっ!
こ、この私としたことが、神々しい雰囲気にあてられてしまった・・・。
「ほ、本日はいかがなされたのですか?」
き、気を取り直してきちんと仕事しないと・・・。
「もちろん、異世界への旅立ちについてですわ」
「・・・あのー、つかぬことをお伺いしますが・・・」
「何ですか?」
「貴方様は、正真正銘のお嬢様、それを通り越して一国のお姫様ですよね?現在の生活に不自由があるとはとても思えないのですが・・・」
どの異世界にも異形の者はいる。
安全性を考えたら、異世界転生なんてしない方がいい。
「確かにそうです。私は今、何一つ不自由のない生活を送れています。送れていますが・・・」
彼女は少し、曇りがかったような顔をした。
「・・・そうですね、少し、私自身について聞いていただけますか?」
「は、はい・・・」
「あの事件が起きたのは、3年ほど前でしょうか・・・。栄華を誇り、繁栄した国とはいっても、それが平和だとは限りません。溢れんばかりの幸福は、周りから疎まれ蔑まれる。近隣の敵対国が、私の国の陥落を狙ってきたのです」
彼女の口調には、一つ一つ重みがあった。
『国が狙われたけど結果的には何も問題がなかった』みたいな、そんな雰囲気の軽い話ではないことが分かった。
「当然、我が国の警備は強固。易々と攻め入られるものでもないのですが・・・。私の不手際で、姫である私は敵に捕らえられてしまいました」
「そ、そんな・・・」
「自分で言うのも何ですが、私の影響力というのは双方の国にとっても凄まじいもの・・・。人質として捕えられた私のことを慮るあまり、私の国は手を出せなくなってしまった。・・・そして」
姫様は顔を伏せる。言葉も詰まる。
そこからは、そういった上流階級の暮らしを知らない私でも、何が起きたのかを想像できた。
「・・・そこからは、ご想像の通りです。敵は父の心を削るため、私に対して悪行を尽くしてきました・・・。手枷足枷をつけられ、衣服は剥がれ、身動きが封じられたまま、鞭ではたかれて・・・」
「姫様・・・」
貴族の暮らしがいいものだというのは、私たち平民の思うところ。
実際には、耐えられないような仕打ちも行われる。
・・・だとしたら、現実から逃げ出したいと思うこともあるだろう。
「あの男たちは、姫である私の身分など関係なく攻めてきた。いえ、姫だからこそ、気持ちが昂ぶっていたのでしょう。彼らの顔は嬉々として笑っていました。・・・体には痛みが走りぴりぴりと痺れ、目からは自然と涙が零れ落ちてきた」
聞いているだけでおぞましい。
もしそれが自分だったら、そう思うと怖くてたまらない。
「あ、ああ、すみません。暗い話になってしまって・・・。結果としては私は助けられ、国も大きな損害を被ることもなく、敵を殲滅することには成功したので大丈夫だったのですよ」
「全然大丈夫じゃないですよ!姫様の心と体には、癒えることのない傷がついたじゃないですか・・・」
「・・・そうですね。あの事件があってから、私の人生は大きく変わりましたから・・・。そしてその経験を経て、私は思ったのです・・・」
ごくり・・・。
「捕縛って拷問って─。何って心地の良いものなのだろうと!!」
「・・・はい?」
「今まで人の上に立つことだけを求められてきた私が、心無い人によって乱暴にされ足蹴にされる・・・。それが何と背徳的で、心に響く快感なんだと!」
「ちょ、姫様・・・?」
「なので私は、異世界に行って奴隷になることを志願したいですわ」
変態だーーー!!!
「いやいやいや、えっ!?さっき顔を伏せてたじゃないですか!あれって、口にするのもはばかられるような、つらい思い出だったからじゃないんですか!?」
「そ、それはその・・・。あの時のことを思い出して頬が紅潮してきまして・・・。それを見られるのは流石に恥ずかしいなぁ・・・と」
「今、衝撃発言しておいてよく恥ずかしいだなんてこと思えますね!?」
--------
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
疲れた・・・。
あの後いろいろ手続きしている最中ももっとなじってくれいたぶってくれって変態性が露見してたし・・・。
「・・・でも・・・」
どうしよっかな・・・。
依頼を引き受けたとはいえ、いくら奴隷になりたいって言ってもある程度は身の安全を保障してあげないとな・・・。過労や無茶な責め苦で死なせたら寝覚めが悪いし・・・。
「よ、レーネ」
「ラミア」
いつも私をからかう同僚。そういえば名前は紹介してなかったっけ。
ラミア・コリーグ。私よりも先輩なんだけど、本人がため口でいいって言うものだからお言葉に甘えてる。
「なに?さっきのお姫様のこと考えてるの?」
「まね、どんな風に設定してあげようかなって思って」
「うーん・・・。この前、奴隷商人になりたいって言って異世界に送ったハーレム希望者がいたでしょ?あの人、異世界でも節度を守ってきちんとしてるみたいだよ?」
「そうなの?じゃあ、その奴隷商人の奴隷になれるようにセッティングするか。彼なら死ぬほどに乱暴はしないかな。・・・それにしても」
彼女の異世界設定にある程度まとまりがついた後、私は思っていた気持ちをラミアに吐露する。
「男がさ、ハーレム築きたいっていうのはまだ分かるよ?でも何であんな高貴なお姫様がエロ奴隷になりたいって願望抱くかな・・・」
「そりゃあ趣味嗜好性癖は人ぞれぞれだし。レーネだって奴隷願望くらいあるでしょ」
「ないわ!考えられないし、そんなこと」
「・・・でももしさ、これから先何年も出会いが無い中で、イケメンでそこまで乱暴しない主人の奴隷になれるって言われたら、考えるんじゃないの?」
「・・・・・・・・・・・・まぁ、それは、多少は」
「・・・自分でふっといてなんだけど、あるのね・・・」
同僚に若干呆れられる私だった。
次回に続!
【ちょっと教えて!異世界転生!】
Q、異世界って依頼者につき一つじゃないの?
A、いえ、そうとは限りません。
その方の目的や条件に合致すれば、以前誰かを送ったことのある異世界にも送ることは多々あります。例えば、魔王を倒す勇者になりたいという方が二人いればその方たちは別々の世界に送りますが、今回のように奴隷商人と奴隷みたくペアにできるようなら同じ世界を使います。
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