お仕事その6 「私の才能は早すぎたんです!」

「私、料理が大好きなんです!」

「うわー、素晴らしい趣味ですね!」


料理。

人の3大欲求の一つである食欲を満たすためには欠かせない要素。

当然、異世界には地球には存在していない生物や植物がわんさかあるため、料理も幅広いジャンルで多くの種類がごまんとある。

だからか、異世界に行って料理を堪能したいという依頼者は意外と多く、今日来られた20代後半くらいの女性もまたその一人。


「ありがとうございます!私、ホントに料理が好きで!特に作るのが!世界中を旅してきて、美味しい料理をたっくさん食べてきて、日々料理の腕を研鑽してきました。なので、この腕を是非地球以外の場所で試してみたいって思って」

「なるほど、料理人系の異世界転生ですか」


グルメ系の異世界転生は大きく分けて二つ。料理はできなくても、ただ食べるのが好きだという方向けの美食屋プランと、地球とはまるで違う異世界に地球の食文化を浸透させる料理人プランだ。今回の彼女は後者。


「あ、そうだ!私、今回転生局の方々に依頼するにあたって、料理を作ってきたんです!ぜひ食べてみてください!」


彼女は背負っていたリュックの中からタッパーを取り出して私に渡してくれた。


「わぁ、ありがとうございます!とっても美味しそうですね!」


思わずよだれが出てしまいそうな見た目だったけど、今、私は接客中の勤務中。当然食べるわけにはいかない。そこで、後ろの事務室にお客様からの贈答品といって渡した。


「みんな喜んでましたよ。いっつもお腹すかせてるんで、私の同僚たちったら」

「あはは、いいじゃないですか。やっぱりいっぱい食べるのが健康的ですもん!」

「さて、それでは細かいところをいろいろ決めますか」


料理を裏に回し、お客様と転生についての詳細を話し合おうとしたその瞬間。

・・・それは来た。


「がふっ、ごはっ・・・。う、ぐぁぁぁあああ!」

「な、何だ・・・?急に煙が・・・!?ぐ、ぐふっ、がはぁっ!」


・・・・・・・・・・え?


「それでですね、やっぱり異世界に行くからには」

「あ、いや、ちょっと待って!?」


思わずお客様相手にタメ口になってしまったけれど、今となってはこんなことは些事。後ろから、とんでもない声の断末魔が聞こえたんだけど。


「え。あ、あのー、もしかして何も聞こえなかったんですか・・・?」

「いえ?しっかり聞こえてましたよ?私の料理が美味しすぎたうえでの嬉しい悲鳴ですよね?」

「いやどう考えても違いますよね!?何か絶対ヤバいやつですよね!?」


なんで今の惨状を聞いてその認識なわけ!?

下手し死人出たんじゃないかっていうぐらいの感じだったけど!?


「やだなぁ。確かに私の味覚はほんのちょっとだけ人とずれているって言われますけど、基本的には問題ないですって」

「いやいやいや、普通料理を食べたあとにあんな死に瀕したみたいな声が出しませんって!!」

「そうは言われましても・・・。私は自分の料理を味見して全然問題ないですし・・・」


あ、味見して自分でゴーサイン出してるのか・・・。

味見もせず適当に出していない分、よっぽど厄介なんだけど・・・。


「そ、その・・・、料理を食べてもらうのが好きってことは、今までもいろんな人に振る舞ってきたんですよね?その時何か起きなかったんですか?」

「何かですか?そうですね・・・。例えば、小学生のとき、運動会のときに蜂蜜レモンを出してなぜか私のクラスだけが棄権することになったり・・・」

「え?」

「中学生のとき、バレンタインデーにチョコをあげた翌日、すべての男子がなぜか学校に来なかったり・・・」

「ええ?」

「高校生のとき、修学旅行中の朝食の後にクラスメイトにクッキーを配ったら、なぜかその日一日誰もホテルから出られなかったりはしましたが・・・」

「えええ!?小中高のビッグイベントを軒並みクラッシュしてるじゃないですか!!」


みんながわくわくどきどき胸躍らせてるところに何で爆弾投下しているの、この人!?


「・・・いや私のせいじゃないですって。私の腕が悪いんじゃない。この世界が、まだ私の味覚センスに追いついていないだけですって」


な、なんちゅうはた迷惑すぎる勘違い・・・。


「私の才能は、まだまだこの世界には早すぎたんです!だから、異世界に行って味覚の違う人たちに、私の美味しい料理を振舞いたいんです!」


いや、抑えとけってここで・・・。

せめて一つの世界だけに留めておけって!

こ、これって、無責任に異世界に送ったら向こうの世界とんでもないことになるんじゃ・・・。ここは管理局として、何とか断る方向性に─。


「あ、そうだ!ここ、厨房あります?ぜひ、私の料理を御社の方全員に振る舞いたいんですけど・・・」

「えっ!?い、いえ、け、けけ、結構です!そんなお手を煩わせるようなことは・・・。わ、わわ、分かりました!!あの、すぐに異世界に行けるように手続きしておきますので今日はもうお帰りください!!」

「え?でもまだお金のこととか何も話してませんけど・・・」

「あははは、今日はもう大サービスですから!格安のプランをこちらが組んでおきますから!」

「そうなんですか?分かりました、では、よろしくお願いしますね」


何とか彼女のリーサルウェポンは回避できたな・・・。

・・・ごめん、異世界の人たち。自分の命の方が大事なんで。


「あ!いっけない、忘れてた!事務室のみんなは!?」


私は急いで裏へと走った。そこには・・・。


「う、う・・・」

「がはぁ・・・」


死屍累々。

血反吐やらなんやらよくわからないものが飛び散り、みんなが苦しそうに床に倒れていた。


「・・・ま、まさに地獄絵図・・・」


--------


後日。


「・・・あん時はマジでヤバかったよな・・・」

「うん・・・」


私は男同僚とあの時の料理事件を振り返る。

ホント、もしやこの管理局を破壊しにきた刺客なんじゃないかって疑ったくらいだし・・・。


「・・・何か、彼女を送った異世界の住人にはつくづく悪いことをしたような・・・」

「ああ、それについては心配いらねぇってよ」

「あ、そうなの?良かった~、流石に異世界だけあって、味覚も現世の住人とは違ったんだ」


だとしたらあの子にとっても、異世界転生は良い機会だったかもね。


「あ、いやそうじゃなくて・・・」

「え?」

「魔王があいつの料理食べて死んだんだってさ、毒とか特に入れてないのに」

「んなっ・・・」

「だからあいつ、魔王殺しの料理人として、英雄扱いされてるらしくて」

「は、ははは・・・」


・・・あんまり言っちゃいけないけど、現世こっちにとっても彼女を転生してよかったんじゃないかって思ってしまった。

                   

次回に続!


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、異世界の料理って美味しいの?

A、異世界によってまちまちです。当然いいモンスターを使った料理ならいい味が出ますし、料理人の腕によっても味は変わります。ここらは現実世界と同じですね。ただ、味覚は人によってそれぞれなので、転生させるお客様の味覚を異世界の料理に合わせて変えるということは基本的には行っていません。

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